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[特集]

ホーチミンの市場とともに生きる:ホアフン市場

2026/03/15 10:45 JST更新

(C) thanhnien
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 まばらな呼び込みの声が響いては消えていき、ホアフン市場は再び果てしない静寂に包まれる。しかしその静寂の中で、馴染みのリズムで鼓動を続ける「心」がある。それは記憶の鼓動であり、素朴で飾り気はないが人情に溢れた古き良きサイゴン(現在のホーチミン市)の鼓動だ。

 ホーチミン市旧10区(現在のホアフン街区)のカックマンタンタム通りにひっそりと佇むホアフン市場は、半世紀以上にわたり、都市の生活の営みと共に今もなお呼吸を続けている。

 買い手よりも売り手の方が多いこの場所で、各店舗が何時間も店を開けているのは、生計を立てるためというよりも習慣を保つためだ。年老いた商人たちがいまだにここに留まっているのは、日々の糧のためだけでなく、自分の人生の血肉となった市場への愛着のためでもある。

「市場の番人」たちの記憶

 ホアフン市場は1960年代初頭に誕生したが、約30年前に再建・改修されてより立派になった。しかし多くの商人にとって、店の屋台の高さがなく、一雨降れば足元が水浸しになり、狭い路地裏に甲高い呼び込みの声が響き渡っていた「平屋市場」時代の記憶は、今でもはっきりと残っている。

 「あの頃は本当に楽しかったです。毎朝店を開けると一帯が賑わっていて、商品を出せばお金が入ってきました。今は…3~4日で商品が一つも売れない日だってあります」と、布地を売るフオンさん(女性・60歳)はため息をつく。

 一方、衣類を売るリエンさん(女性・70歳)にとっては、市場の隅々までが記憶の一部となっている。「私の人生のすべてがここにあるのに、どうしてここを離れられるでしょうか」と、彼女は静かに言う。

 「幼い頃から、母についてここに来て、商売をしていました。結婚して子供を産み、子供を育てて学校に行かせることができたのも、すべてこの市場のおかげです。今はもう年をとりましたが、毎朝ここに椅子を持ってきて座るというのが、すっかり習慣になっているんです」。彼女はこう打ち明け、店は喜びや悲しみだけでなく、彼女の全財産でもあるのだと語る。

 多くの商人にとって、市場は単なる生計を立てる場所ではない。それは「第2の家」であり、働き者の女性たちが互いに助け合って生きる場所でもある。市場で彼女たちは、食事を共にし、そして喜びも悲しみも分かち合う。誰かに嬉しいことがあれば市場全体が喜び、誰かが病気になったり困難に直面したりすれば、市場全体で協力して助け合う。

 「この市場は寂しいと言えば寂しいですが、1日でも休むと恋しくなります。家は静かすぎて耐えられませんが、市場に出てきて話し相手がいれば元気になれるんです」と、もうすぐ60歳になる、化粧品売りのアンさん(女性)は優しく笑う。

 「私たちはよく、ここは『療養市場』だなんて冗談を言い合っているんです。誰も何も売り買いしないから、ここに休みに来ているんだ、って」と彼女は続ける。

 「市場は自分たちの生活を支えてくれるだけでなく、心も豊かにしてくれるんです。商品棚のそばで一生を過ごしてきた我々にとって、市場の呼び込みの声や笑い声はもはや血肉の一部となっています。家にいるのは退屈でたまりません。ここに来れば友人に会え、おしゃべりができ、恋しさを紛らわせることができますから」とフオンさんは言う。

現代化という名の旋風

 リエンさんは、ここ数年、ホアフン市場は心が痛むほど閑散としていると打ち明ける。かつての人々の賑わう足音はすっかりまばらになり、代わりに静寂な空間が広がり、カタカタと鳴る扇風機の音と、商人や常連客同士のぽつりぽつりとした会話だけが残っている。

 「今は誰もが家でじっとしていても、携帯電話を操作すれば家の前まで商品が配達される時代です。送料はかからないし、値段もずっと安いし。必要なものは何でもネットで手に入るんですから、若者たちは昔のように市場には来ません」とフオンさんは悲しげに語る。

 購買力は低下しているが、様々な維持費は着実に増加している。「ごみ代が毎月約100万VND(約6000円)かかります。それに、場所代、税金…色々あります。売れ行きが悪くても支払わなければならず、支払わなければ店を失ってしまいますから」とリエンさんは言い、拠り所を探すかのように細い両手を組む。

 「ここには、かつて全財産をはたいて買われた店もあります。仕事を得るため、生計を立てるため、家族皆を養うために、20テール(1テール=37.5gの純金)以上の金(ゴールド)を支払って店を買った人もいました。でも、今はただ座って少しの思い出をしのぶ場所になってしまいました。昔は将来のために店を買うのだと思っていましたが、今はもう何の価値もありません」とリエンさんはため息をつく。

市場にすがる高齢者たち

 ホアフン市場では、商人の大半が60歳以上で、中には80歳を超える人もいる。彼らは時の経過とともに色あせたコンクリートの柱のようにしぶとい、「市場の番人」だ。

 子孫に家業を継がせようと考えていた人も多かったが、若い世代はもはや興味を持っていない。「若者はここに1日も座っていられないでしょう。ここは年寄りばかり。金儲けのためではなく、自分がまだ役に立っていると感じるために売っているんです」と、アンさんは笑いながらも目を赤くする。

 ホーチミン市が現代化の旋風に巻き込まれる中、ホアフン市場のような伝統的な民生市場は、「より効率的な運営」に向けた撤去や改修の提案にさらされている。

 「もし市場をなくすとしても、反対はしません。たとえ市場が存続したとしても、もう商売はうまくいきませんから。でも、国や地方自治体は、例えば早期退職のような形で、老後を心配せずに済むように資本の少ない商人を支援するべきだと思います」と、リエンさんは希望と不安の入り交じった声で打ち明ける。

 しかし、ここの商人の多くは、「市場が残る限り、記憶も残る」という儚い信念をまだ抱いている。「伝統的な市場は単なる売買の場ではなく、記憶であり、文化でもあります。それを失えば、サイゴンは魂の一部を失うことになります」とフオンさんは力強い声で言う。

市場の魂を守り、街の魂を守る

 毎朝、街がまだ目を覚まさないうちに、ホアフン市場は商品を並べるガタガタという音とともに目を覚ます。商人たちは、タコができた両手で、一つ一つの布のロール、乾物、衣類、家庭用品などを根気よく並べていく。

 「今は大して売れないけれど、見捨てるには忍びないですから」とアンさんは小声で言う。「ここに来れば馴染みの顔に会えるし、呼び込みの声も聞けます。家にいたら毎日同じことの繰り返しで、本当に退屈なんです」。

 夕方遅く、リエンさんの衣類の陳列棚に客の姿はない。彼女は数十年間ずっとそうしてきたように、ズボンや花柄の服を今も丁寧に畳み直している。

 「明日がどうなるか、私にはわかりません」とリエンさんは口ごもり、そしてこう続ける。「わかっているのは、元気なうちは市場に出るということだけ。ここなら、自分にはまだ価値があり、意味があると感じられるんです。家には壁と静寂しかありませんから」。

ホアフン市場

 ホアフン市場は、ホーチミン市ホアフン街区(旧10区)カックマンタンタム通りに位置する。

 ホアフン駅周辺の住宅地がますます人口過密になった1960年代初頭に市場は形成された。最初は住民のための小規模な売買の場にすぎなかったが、市場は徐々に屋根付きの建物として整備され、現在までに何度かの改修を経てきた。

 ホアフン市場では、生鮮食品から衣類、靴、家庭用品まで多種多様な商品を扱っている。市場は早朝から夜まで営業し、主に小売りを行っている。主な客層は旧10区やその周辺地域の住民となっている。 

[Thanh Nien 06:30 26/10/2026, A]
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