VIETJO - ベトナムニュース 印刷する | ウィンドウを閉じる
[特集]

旧暦7月「鬼月」のタブーに疲弊する人々、不安が生む家族の不和

2026/08/30 10:18 JST更新

(C) VnExpress
(C) VnExpress
(C) VnExpress
(C) VnExpress
 ベトナムでは、旧暦7月は「孤魂」、すなわちベトナム語で「さまよう魂」を意味する「コーホン(cô hồn)」の月(中国でいう「鬼月」)にあたり、日々の生活の中でもさまざまなタブーが存在する。

 「孤魂月」には、多くの人が不運に見舞われることを恐れ、治療を延期したり、勤務時間を変更したり、家族に厳しい禁忌を課したりして、生活にまで支障をきたし、疲弊している。

 旧暦7月の初め、北中部地方ゲアン省に住むニャット・レさん(女性・65歳)は、健康診断を受け、子宮内膜の損傷と膝関節水腫と診断された。医師から合併症を防ぐための手術を勧められたが、彼女はすぐに入院を拒否し、薬を処方してもらって帰宅した。

 「『孤魂月』は悪いことが起きやすいので、手術は来月になってから考えます」とレさんは話す。

 レさんは自身の治療計画を延期しただけでなく、家族に対しても、髪を切らないこと、18時以降は外出したり洗濯物を干したりしないこと、墓地のそばを通らないことなどを指示している。

 また、夫や子どもが外出する際には、服のポケットにニンニクを入れておくよう言いつけている。大規模なビジネス取引もすべて翌月に延期した。不安を和らげるため、レさんは大がかりなお供え物を用意し、平穏を祈る。

 こうしたレさんの忌避心理は、「忌み事を避ければ無病息災」という考えに基づく、家族の商売上の慣習に端を発している。さらに、インターネット上の自称「占い師」たちがでっち上げた「一家が破産した」という話の影響を受け、不安は過度に高まったのだ。

 レさんが決めたルールのせいで、家庭内の雰囲気は息苦しいものになった。こうした状況を避けるため、長女はゲアン省から離れたハノイ市での夏期講習に申し込んだ。レさんの夫も、常に時間を管理され、妻からの根拠のない要求にことごとく従わされることに不満を募らせている。

 こうした忌避心理は、若者の間にも広がっている。ハノイ市の大学生であるホアイ・アンさん(女性・22歳)は、アルバイトのシフトをすべて日中に変更した。彼女は、申(さる)年生まれの人は旧暦7月に不運に見舞われると警告する動画を見た後、奇数の日は18時前に下宿先に戻り、白い服を着るのを避け、遠出の旅行もキャンセルした。

 「不安を和らげるために、こうしたルールを守っているんです」とアンさんは話し、風水グッズの購入に100万VND(約6000円)以上を費やしたことを明かした。

 ここ半月ほど、ニャット・ミンさん(男性・30歳)は、母親から受け継いだ厄除けのルールに従うことに疲れ果てている。仕事が順調に進み、売り上げを維持できるようにと、彼は常に「お守り」を持ち歩き、取引先との打ち合わせに出かける前には、家を出る吉日・吉時を念入りに確認している。

 しかし、ミンさんが家族にこれらのルールを押し付けたことで、家族との間には軋轢が生じている。

 ミンさんのルールでは、家の中での殺生は禁止で、生鮮食品は市場であらかじめ下処理を済ませてこなければならない。妻や子どもは写真を撮ることも、遅い時間に食事を作ることも許されない。厳しい束縛に、ミンさんの妻は憤慨している。「忌み事を避けてもまだ効果は見られませんが、家族の間にはすでに不和が生じています」とミンさんの妻は話す。

 旧暦7月に入ってから、ティックトック(TikTok)やスレッズ(Threads)などのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)プラットフォームでは、「旧暦7月の『孤魂月』のタブー」というキーワードで数百万件ものリアクションが記録されている。

 新たに開業・開店しないこと、高額な買い物をしないこと、引っ越しをしないこと、美容整形手術をしないことなどのタブーをまとめたリストは、数百万回も閲覧されている。また、自称「霊媒師」による「『孤魂月』の乗り切り方」を伝授するライブ配信も、数万回視聴されている。

 伝統文化研修研究センターのグエン・ドゥック・ヒエン所長は、一人ひとりが信仰と根拠のない噂を区別する必要があると指摘する。「髪を切ることや、夜間に外出することが、幸運や不運を左右するという科学的根拠はありません」とヒエン氏は語る。

 ヒエン氏によると、旧暦7月はベトナムのお盆にあたる「盂蘭(ブーラン=Vu Lan)」と深く結びついており、家族に思いを馳せる時期でもある。恐怖心から治療を延期したり、重要な仕事の機会を逃したりすることは非科学的で、信仰に依存して生活を混乱させるのではなく、信仰をより良く生きるための助けとするべきだとヒエン氏は考えている。

 また、ヒエン氏は、人々が「孤魂月」というレッテルを貼ることで、豊かな文化的価値を持つ月が意図せず恐怖の対象に変わってしまっていると付け加える。

 本来、旧暦7月は人々が立ち止まり、家族を大切にし、両親を労わるための時間だ。さまざまな忌避行動は、それを行うことで心の平穏をもたらす場合にのみ意味を持つ。むしろ、それが執着となり、結婚したり、治療を受けたり、仕事をしたりすることさえためらうようであれば、認識を改める必要がある。

 北部紅河デルタ地方フンイエン省の僧侶であるドゥック・タイン氏は、宗教的な観点から、仏教において旧暦7月は祖先への感謝を改めて意識するブーランの時期であり、迷信的な悪習を推奨したり、信者に日常生活や仕事を中断するよう強いたりすることはないと話す。

 「法律を守って生活し、善行を積めば、物事は自然と順調に進みます。日付や月の禁忌にとらわれる必要はありません」とタイン氏は語る。

 周囲の忌避心理とは対照的に、ハノイ市に住むフオン・チンさん(女性・23歳)は、空いた時間に寺院で奉仕活動をしたり、帰省して両親を訪ねたりしている。彼女の生活は変わらず順調だという。

 「漠然としたものを恐れるより、もっと現実的なことに時間を使うようにしています」とチンさんは話した。 

[VnExpress 10:32 26/08/2026, A]
© Viet-jo.com 2002-2026 All Rights Reserved.


このサイトにおける情報やその他のデータは、あくまでも利用者の私的利用のみのために提供されているものであって、取引など商用目的のために提供されているものではありません。弊サイトは、こうした情報やデータの誤謬や遅延、或いは、こうした情報やデータに依拠してなされた如何なる行為についても、何らの責任も負うものではありません。

印刷する | ウィンドウを閉じる