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[特集]

森に帰ったゾウ~ベトナム最後のゾウたち~【後編】

2019/05/12 05:30 JST更新

(C) Miwa ARAI
(C) Miwa ARAI
strong>森に帰ったゾウ~ベトナム最後のゾウたち ダクラク省に国内初のゾウ保護観光施設オープン~
(※本記事はVIETJOベトナムニュースのオリジナル記事です。)


前編 → 森に帰ったゾウ~ベトナム最後のゾウたち~【前編】


象体験(エレファント・エクスペリアンス)ツアー

 南中部高原地方ダクラク省と同ダクノン省にまたがるヨックドン(Yok Don)国立公園の森は熱帯密林ではない。落葉樹の立ち並ぶ高原の森林には小川や泉があり、平坦なトレッキングコースが整えられている。

地地元の少数民族エデ族のガイド。森の植物や、民族に伝わる薬草の効能や鳥の名を説明してくれる。

 のんびりと20分ほど歩いた頃「静かに、あそこにゾウがいます」とガイドが声をひそめた。最初は「どこに?」というくらいにわかりにくい。目を凝らすと、確かに木々の奥にゾウのシルエットが見える。


 大きな体がゆっくりと近づいてくる。静かな森に、段々とピシピシと、地面の小枝や落ち葉を踏みしめる音が聞こえてくる。ゾウは目の前を悠然と横切りその先で立ち止まり、木の枝を器用に鼻に巻いて押したり引いたりして遊び始めた。とても楽しそうだ。

 しばらくするともう一頭が現れた。約束をしていたのだろうか、優しく鼻であいさつを交わし顔を寄せ合い、まるで笑いあっているかのようだ。彼女たちから幸福感、満足感があふれ出ていて、こちらにも伝わってくる。森とゾウは完璧に調和し、すべてがその中に包み込まれるかのようだった。

 何かに感謝し、何かに祈りたいような温かな気持ちに満たされ、私たちは皆、言葉を失っていた。



イフン(Y Khun)

イフンとブンハム(Bun Kham)

森に帰ったゾウ

 最初に現れたゾウが、イフン(Y Khun)だった。 彼女は3歳の頃に森で捕らえれ、幼年期から木材を運搬し、時に他の野生象の狩猟に使われてきた。その後にこの園内の象乗り用のゾウとされ、老いてもなお観光客を背負い歩き続けていた。罠にかかったその日から、使役象は皆、ずっと独り鎖につながれたままになる。他のゾウと遊ぶことも森を自由に歩くことも、もうない。

 2018年、イフンは60歳にして生まれ育った森に帰ることができた。彼女と挨拶を交わしていたのは、やはり長年の観光用象乗り業から解放されたばかりのブンハム(Bun Kham)、49歳の雌象だ。

 「ゾウたちも、象使いだったケア係も皆、森の中で微笑んでいます。ゾウはきっと苦しい過去を記憶しているのでしょうが、赦すことも知っているのだと思います。森にいるゾウたちに会うと、もう何十回も会っているというのに、出会うたびにうれしくなり、いつまでもそこにいたい気持ちになります。野生のゾウに森で出会う感動に、見学者も皆満足してくれます。ゾウも象使いも、私たちも、皆がハッピーでいられる形があるはずです」(アニマルズアジア 動物福祉マネージャー ディオンヌ・スラグターさん)。

 ベトナムの森で、野生象も使役象も、まだ必死に命をつないでいる。

 どこか遠くの森の中で大きなゾウが暮らしている、と想像できることは、大切なことなのではないだろうか。長く重い過去を背負いながらも、森に帰ったイフンはあんなにも幸せそうで、共にこの世界に生きることを、祝福してくれているかのようだった。


【Text & Photo by Miwa ARAI(ライター)】


見学者とケア係が一緒にゾウの姿に微笑む。

エデ族の元象使いはケア係として勤務。



<付属情報>
ダクラク省のゾウ保護の取り組み

●ダクラク・ゾウ保護センター
(Daklak Elephant Conservation Center in Vietnam)


地域の野生象と住民の問題解決、生態調査や使役象の獣医ケア等を行う。
現在敷地内にジュン(Jun、7歳)とゴールド(Gold、3歳)の2頭の小象を保護している。


ジュン:森の中でかかった罠を地面から引き抜き、足に罠を付けたまま使役象の後を付いて来て保護された。罠の刃が足に食いこみ、それを外そうと使った鼻先も裂けていた。当時推定3歳。左足先の切断手術と鼻の裂傷治療がされたが、そのハンディキャップは大きく野生に帰ることは難しい。

ゴールド:井戸用穴に落下し瀕死の状態だったところを保護。3か月の乳児だったので、保護センターの飼育担当フー(Phu)さんがミルクで育児をした。野生に戻す試みが4度行われたが、どの群れにも受け入れられなかった。

ジュンとフーさん。
「ゴールドには、毎朝ミルクをくれと鳴いて起こされ大変でした(笑)。ジュンは保護当初は人を寄せ付けず、触ることもできませんでしたが、今では言葉だけで麻酔なしに傷のケアもさせてくれます。2頭ともとても可愛いです。ゾウは地域住民の生活の糧なので、簡単ではないでしょうが、ゾウを使わずに共に暮らせる日が来ることを願っています」。


(施設は一般非公開)
https://www.facebook.com/Daklak-Elephant-Conservation-Center-in-Vietnam-DECC-930805180314342/ECC
http://www.ttbtvoidaklak.org.vn/en


●ヨックドン国立公園 / エレファント・エクスペリアンス
(Yok Don National Park / Elephant Experience)


4頭のゾウは広い国立公園内を自由に移動するが、まだ野生へ戻るリハビリ中の彼らの行動範囲は限られているので、ツアーではガイドがほぼ確実に居場所に案内してくれる。“エレファント・エクスペリアンス”は、地域の観光収入源を“象乗り”から“象見学”に移行させる、ベトナム初の試み(2023年までの5年間期限)。より多くの使役象を保護し、健康な森のゾウが増えれば繁殖の可能性もある。動物に優しい観光施設の新たなビジネスモデルとして、ベトナム各地、東南アジア各地にも広がる可能性もある。絶滅阻止、使役象の飼育状況改善、観光客の意識改革、多くの意味があるが、ツアーの知名度は未だ低い。

<ガイドツアー料金>
半日コース(2~2.5時間):80万VND(約3900円)/人
一日コース(8時間):140万VND(約6800円)/人

<交通手段>
ダクラク省バンメトート(Buon Ma Thuot)市中心部から車で約1時間
タクシー:約50万VND(約2440円)/台
公営バス:2万2000VND(約110円)/人(6~17時の間に30分間隔で運行、所要約1時間半)
※バンメトート市までは飛行機でハノイ市から1時間45分、ホーチミン市から1時間、毎日直行便運航あり。

ヨックドン国立公園
問い合わせ(英語)
Email:yokdon.ecotourism@gmail.com / yokdonnationalpark@gmail.com
電話:+84 905 22 94 36 / +84 942 52 54 26
https://yokdonnationalpark.vn/tour/elephant-experience-half-day-tour


ベトナムのゾウ保護活動についての問い合わせ、支援:
アニマルズアジア・ベトナム
Email:vietnamqueries@animalsasia.org (英語)
https://www.animalsasia.org/uk/media/news/news-archive/animals-asia-re-affirms-commitment-to-saving-vietnams-endangered-wild-elephants-now-the-government-must-do-the-same.html 

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