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[エンタメ]

東京国際映画祭、ベトナム映画初のコンペティション作品「輝かしき灰」の監督や俳優らが精力的に交流

2022/10/31 12:00 JST更新

(C) 大塚淳史
(C) 大塚淳史
small>(※本記事はVIETJOベトナムニュースのオリジナル記事です。)

 現在開催中の「第35回東京国際映画祭」で、ベトナム映画として初めてメインコンペティション作品に選ばれた「輝かしき灰(原題:Tro Tan Ruc Ro、英題:Glorious Ashes)」のブイ・タック・チュエン(Bui Thac Chuyen)監督や出演俳優たちが訪日し、映画祭のレッドカーペット、上映後舞台あいさつやトークイベントに参加して観客や映画関係者らと交流を楽しんでいる。

 「輝かしき灰」は映画祭初日の10月24日夜にワールドプレミアムとして上映された。上映終了後には、チュエン監督や、出演した俳優のレ・コン・ホアン(Le Cong Hoang)、ジュリエット・バオ・ゴック・ドーリン(Juliet Bao Ngoc Doling)、フオン・アイン・ダオ(Phuong Anh Dao)、ゴ・クアン・トゥアン(Ngo Quang Tuan)、そしてチャン・ティ・ビック・ゴック(Tran Thi Bich Ngoc)プロデューサーが登壇した。

(C) 大塚淳史

 チュエン監督は「コロナ禍の制作でよくやったと思います。このコロナが収束していく中で皆様の前で上映できるこの嬉しい気持ち、きっと皆様にもわかってもらえると思います。私たち全てのスタッフにとって良いお祝いになりました」と観客に語った。

 また、チャンプロデューサーは「私たちのベトナム映画が東京国際映画祭のコンペに参加できるチャンスをいただき感謝していますし、嬉しく思います。将来はもっとたくさんのベトナム映画が日本の観客の皆様の目に触れるよう、もっともっと素晴らしい作品を作っていきたいと思っています。今日はその第一歩だと思います」と期待を述べた。

(C) 大塚淳史

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 「輝かしき灰」はベトナム南部の海沿いの村を舞台に、3人のヒロインとそれぞれの男性との関係を描いた作品で、作家グエン・ゴック・トゥー(Nguyen Ngoc Tu)の小説を映画化した。チュエン監督は「このストーリーとは6年前に出会いました。ラブストーリーで、ベトナム南部のカマウ省に住む女性作家の短編小説が気に入ったんです」と製作のきっかけを明かした。

 レ・コン・ホアンはイベント終了後の取材で「実は私がこの映画を見たのも今回が初めてでした(笑)。この映画は私にとって自分の暮らしだとかを表している特別な映画で、結びつきを表しています。また、東京国際映画祭に参加できたという特別なチャンスに感動しています。今度はぜひ、観客がどういう風にこの作品を見ているのかこの目で感じたいです」と話した。

 同作品は東京国際映画祭で3回上映されたが、いずれも多くの観客で埋まっていた。


”交流ラウンジ”ブイ・タック・チュエン×藤元明緒

 10月25日には、トークイベント「”交流ラウンジ”ブイ・タック・チュエン×藤元明緒」が行われた。藤元明緒監督は、外国人技能実習生として訪日したベトナム人女性の厳しい現実を描いた「海辺の彼女たち」を2021年に公開しており、過去にもミャンマーをテーマにした映画を製作している。

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 藤元監督が「チュエン監督は前作も今作も、俳優もですが水や海が同じくらい重要な要素として出てくるのが印象的でした。今回衝撃的だったのが、水と人が溶け合っているようなシーンが冒頭などにあって、原風景を見ている感覚になって普遍的な芸術的な表現で感動しました。前作でも使っていましたが、これは意識的な演出なんですか?」と問うと、チュエン監督は「日本もベトナムも長い海岸線を持っていることで共通しています。私にとって水は情と繋がっている。気持ち、情けでもあるし、愛情でもあるし、性欲という意味でもある。水というのは制御することができない。ストーリーを描く上で、水は流れ、人間の本質を表していると考えました」と解説した。2人の監督同士で互いの映画についてや考え方を語り合い、終始なごやかなムードで進みイベントを終えた。出演俳優たちも側の席から2人の会話に聞き入っていた。

 藤元監督はチュエン監督に「チュエン監督の作品は国籍や国境で区切れないものを捉えていると思います。いちファンとしては日本を舞台にした映画も撮って欲しいです」とお願いすれば、チュエン監督は「ベトナムに対して新しい視点を持って、日本でもベトナムでもいいので、もっと作品を作って欲しいです」と話した。

 10月28日も舞台挨拶を行うなど、チュエン監督らは精力的に映画祭で活動していた。

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ジュリエット・バオ・ゴック・ドーリン インタビュー
~作品内で存在感を見せた女優は今作品が出演2作目~

 作品内にメインで登場する3人の女性のうちの1人を演じるのが、ジュリエット・バオ・ゴック・ドーリン(Juliet Bao Ngoc Doling)。映画祭で日々イベントに参加し、映画を鑑賞するなど忙しい中、取材に応じてくれた。

 父親が英国人で母親がベトナム人のドーリンはハノイ市出身だが、その後ホーチミン市の高校を卒業した。全額奨学金を得てオーストラリアの大学で動物学と動物科学を学んでいるという。舞台あいさつでは「ベトナム語と英語の通訳を通すと時間がかかってしまうので」と流ちょうな英語であいさつしたり、質問に答えていた。

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 てっきり過去に多くの作品への出演経験があるのかと思いきや、実は今作品が2作目だ。「1作目は2016年に発表されたショートムービーで、『輝かしき灰』は私にとって最初のビッグフィルムでした」。

 上映後イベントで、チュエン監督が彼女を抜擢したきっかけが、その1作目だと明かしている。チュエン監督が「(水に浸かるシーンがあるので)彼女は泳ぐことができるかと聞いたら、学校で水泳をしていたから大丈夫だった」と笑っていた。

 ただ、キャスティングされてから実際の撮影までは時間がかかったという。

 「14、15歳の時に監督と会ったのですが、そこから実際に撮影が始まるまで4年ありました。その間、ずっと脚本を読んだり、撮影前に演じる役と同じような設定を経験しました。撮影時は18歳でした。映画祭初日の上映で、初めて完成作品を見て、とてもエモーショナルになりました」。

 今は大学生であり、動物の調査研究の仕事に関心がある。卒業後に俳優という職業を選択しないのかと問うと、「今はいろんな可能性を試しています。ただ、私は演じるのが好きですね。今はないですが、もしオファーがきたら『イエス』と答えるでしょう。両方ともやってもいいのかなとも思っています」と答えた。

 今回初めての訪日。「人々が親切で素晴らしいです。地下鉄に乗って、空港からホテルに行く時に迷ったのですが、『スミマセン』と日本人に助けを求めたら、丁寧に行き方を教えてくれて感動しました」。食事も日本食を楽しんでいる。「名前を忘れたのですが・・・丸くて、中にタコが入っていて・・・とても美味しかった」と写真を見せてもらったらタコ焼きだった。また、「白い魚を開いて焼いたのも食べたのですが、スイーツな味でこれもとても美味しかった」と写真を見たらウナギのかば焼きだった。

 さらに、食べ物ではないがトイレの温水洗浄便座の写真も見せてくれ、興味深かったそうだ。週末には市内観光をする予定で、「こっちで知り合った人達が、有名な交差点に連れていってくれるそうです」と楽しみにしていた。恐らく渋谷駅前の交差点のことだろう。

 東京国際映画祭に参加し終わったら、オーストラリアに戻るが、「輝かしき灰」は今後も別の国際映画祭に出る予定があるようで、その際にはまた帯同するかもしれないという。その際には「ホーチミン市に寄りたい」と話した。

 東京国際映画祭のコンペティション作品に選ばれたことで、彼女にも注目が集まっていくだろう。「まだ特に出演予定はない」というが、期待したい。

(C) 大塚淳史


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筆者プロフィール

大塚淳史(おおつか あつし)

スポーツ報知で約4年働いた後、中国の上海に移住し5年間在住。現地のフリーペーパー、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局で勤務。帰国後、日刊工業新聞を経てフリーライターに。週刊誌やネット媒体などで、経済、スポーツ、中華圏や東南アジアに関する記事を執筆する。コロナ前までは年2回、ベトナムを訪れていて、2022年8月に2年半ぶりにベトナム旅行を楽しんだ。
 

[2022年10月28日 ベトジョーニュース A]
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