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[特集]

ベトナム映画「パパとムスメの7日間」落合賢監督インタビュー【後編】

2019/01/27 05:00 JST更新

(C) VIETJO/Sa Huynh
(C) VIETJO/Sa Huynh

 落合賢(おちあい・けん)監督の新作ベトナム映画「パパとムスメの7日間(Hon papa da con gai)」が、2018年12月28日にベトナムで公開された。2016年12月公開の「サイゴン・ボディガード(Ve si Sai Gon)」に続いて2本目のベトナム映画を手掛けた落合監督にベトジョー編集部が話を聞いた。

前編 → ベトナム映画「パパとムスメの7日間」落合賢監督インタビュー【前編】

―――家族の関係性やシチュエーションなどを含めて、原作の舞台である日本とベトナムでの相違点についてはどのように映画に落とし込んでいかれたのでしょうか。

原作が書かれたのがもう10年以上前のことなので、その時の日本と今のベトナムで大きく違う部分はあると思います。現代では世界的に親が幼児化していて、親のほうがスマホでゲームをして遊んでいて、子供のほうが一生懸命勉強している、みたいな姿が結構見られると思うんですけれど、親と子供の立場が逆転している、それを今回の作品でも描きたいなと思いました。特にベトナムの高校ってものすごく厳しいんですよ。早朝から学校が始まって、休み時間も含めて規則正しくて、先生の指導の仕方もすごく厳しいんですね。僕が感じたのは、逆に大人になってクリエイティブな会社であるほど自由度が求められるというか。それをパパの会社で表現していきたかった。もともとボディスワップ映画でよくやられてきたのが、親が厳しくて子供が遊び惚けていて、入れ替わって逆になると困るというものだったんですけれど、僕は現代は逆だと思うんです。そういう意味では、今まで作られてきた入れ替わり映画の設定の逆をいこうとはしていました。

―――映画の中でのパパとムスメ、それぞれの想いについて監督の考えを教えてください。

ムスメのチャウ(Chau)が、母親が死んでしまったことで母親の代わりになろうとしていて、それによって自分らしさを無くしてしまった。そのことを、パパのハイ(Hai)はすごく心配している。ハイはそんなチャウに対して、人生を楽しむことで自分らしさを見つけていって欲しいと思っていた。でも、映画を通して彼が気づくのは、彼女が、ムスメがそうなってしまったのは、自分に親としての自覚がなかったからなんだということ。逆にムスメのほうは、父親は遊び惚けているだけなんじゃなくて、自分に人生を楽しむことの大切さを教えようとしていたのだということに気づく。そして自分も誰かになろうとするのではなくて、自分だけにしかないもの、自分らしさを見つけなければいけない、ということに気づくんです。

パパが化粧品の会社で働いているというのは原作も同じなんですけれど、このメイクの部分というのは僕が原作で特に面白いなと思った部分なんです。現代のメイクの在り方というのは、きれいな人がいて、その人になるためにはどうしたら良いのかというメイクの教え方が多いと思うんですね。ただ、自分らしさを活かすメイクというのが僕は本来のメイクの仕方だと思いますし、今後どんどん浸透していく考え方だと思うんです。

映画の中でチャウが、ママのファンデーションを使うシーンがあります。僕はファンデーションって一番自分の肌に合ったものを使わないといけない部分だと思うんですね。それは誰かの真似をしちゃいけない部分だと思いますし、白くなろうと自分の肌に全く合わない白いファンデーションをつけたところで、やっぱり不自然さしか目立たない。そういう意味で、地となるファンデーションを自分らしさとして見つけなければいけないというのが、この映画の中での比喩の1つなんじゃないかなと思います。

―――撮影の面で大変だったシーンなど、印象に残っているシーンを教えてください。

やっぱりクライマックスのシーン(チャウがステージでバレエ、カンフー、ベイプトリックのパフォーマンスを行うシーン)ですね。これは本当に、他のシーンと比べものにならないくらい大変でした。というのも、やっぱりカンフーとバレエとベイプトリック(電子たばこの煙を使ったパフォーマンス)の3つが重なりつつ、1000人くらいのエキストラがいる中で、それを毎日コントロールしながら時間内に終わらせるというのはプレッシャーがありました。

ステージのシーンは音とライティングの調整をまずしないといけないですし、パフォーマンスの準備にすごく時間がかかるので、撮影の一番最初に持ってこなければいけなかったんです。撮影に入ってしまって最後にクライマックスを持ってこようとすると、撮影中に準備をしなければいけなくなってしまうので。ただ、一番最初にクライマックスを撮影して良かったのは、ケイティ(Kaity Nguyen)さんとタイ・ホア(Thai Hoa)さんに準備の時間がきちんとあったこと。まずはそれに向けて全力投球する、他のことは考えずにそれを成功させる、というのが役者さんとしても僕としてもすごくやりやすかったです。逆にそれが終わってしまうとあとはどうにかなるっていう(笑)、自信と余裕みたいなものもありましたしね。

―――監督のお気に入りのシーンを教えてください。

お気に入りのシーンはたくさんあるんですけれど、やっぱりオープニングのモンタージュがすごく好きです。あのシーンが僕にとってこの映画を作る意義でもあったと思いますし、あのシーンがうまくいけば僕の中でこの映画もうまくいくんじゃないかなと思っていましたね。

特に僕は一番最初のシーンをすごく気にかけるんです。この映画の最初のシーンは赤ちゃんのときのチャウが泣いていて、パパがサッカーを観ていてママに世話をさせようとするんですけれど、結局自分で立ち上がってチャウをあやす。それは、パパが初めて「父親」になる瞬間だと思うんですね。父親が泣いている娘を何とかして笑わせようとする、母親はそれを階段のところで見ている、というのが、この作品そのものなんじゃないかなと思っています。この映画の全てが凝縮されているシーンなんじゃないかなという意味では、このシーンが一番ですかね。

あとは(監督ご自身が演じている)ミヤモトのシーンなんですけれど(笑)、日本の原作ということもあって、日本の漫画っぽさみたいなものも入れたいなと思ってスプリッドスクリーン(コマ割り)の形にしました。あのシーンもお気に入りのうちの1つです。

―――全体を通して、ずばり見どころを教えてください。

どの国に行っても家族のつながりの大切さというのは共通の部分があるんじゃないかなと思います。この映画を通して、ベトナム人らしい家族の在り方、共通点や相違点を観ていただければ嬉しいです。家族の在り方というのは文化の在り方だと思いますし、日本人の方々がベトナムを理解する上で、日本の原作がどのようにしてベトナム人にはまるようにカスタマイズされているのかというのも面白みの1つなんじゃないかなと思います。

ベトナム人の方は、これが日本の原作だと知らずに観る人のほうが多いと思うんですが、ベトナム人の方が、(日本の原作だと)知らずに観て、面白かったと思ってくれたら嬉しいです。

―――日本やその他の国での公開予定はありますか?

日本での公開は、まだ確定はしていないんですけれど、3月、4月に映画祭で上映される予定で、それ以降、全国公開までいけるかわかりませんが、劇場公開を狙っています。他の国は、まずベトナムの興行収入の結果がどいうなるかというところからですかね。

―――最後に、今後の展望と、新たに挑戦していきたいことを教えてください。

今後の展望としては、プロデュース業も視野に入れてやっていきたいなと思います。監督ですと1年に1本、もしくは2年、3年に1本というペースなんですけれど、プロデューサーとしてベトナム人の監督とコラボしながら、日本の原作を含めて作品を制作していきたいという思いはありますね。あと、ベトナムの歴史物やミュージカルもやってみたいです。

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落合賢監督プロフィール

落合賢(おちあい・けん)

1983年生まれ。東京都出身。12歳から映画を作り始め、日本の高校を卒業後に渡米。南カリフォルニア大学(USC)で映画制作を学んだ後、アメリカ映画協会付属大学院(AFI)映画監督科に進学し修士号を取得。

短編と長編合わせて30本以上の作品を日本国内外で監督し、ショートショートフィルムフェスティバルで東京都知事賞(「ハーフケニス」2009年)および国土交通大臣賞(「井の中の蛙」2010年)、ローマ国際映画祭最優秀国際短編映画賞(「ハーフケニス」2009年)など数々の賞を受賞。2013年には、ウエンツ瑛士主演の「タイガーマスク」が公開。2014年公開の「太秦ライムライト」は、米国など世界中で広く上映され、大きな注目を集めた。

2016年12月公開のベトナム映画「サイゴン・ボディガード(Ve si Sai Gon)」で日本人として初めてベトナム出資、オールベトナム人キャストのベトナム語映画のメガホンを取った。現在は米国ロサンゼルスと日本に拠点を置いて活動中。

ベトナム映画「パパとムスメの7日間」は、五十嵐貴久氏の同名小説が原作。日本で2007年にドラマ化、韓国で2017年に映画化されている。ベトナム版では数々のヒットを飛ばしているチャーリー・グエン(Charlie Nguyen)氏がプロデューサーを務めるほか、「サイゴン・ボディガード」と同じくマイケル・タイ(Michael Thai)氏が脚本を手掛けている。 

[2019年1月16日 ベトジョーニュース A]
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