ベトナムで人材紹介を行う JellyfishHR がお届けするこのコラムでは、現地で実際に生活をしている日本人に、ベトナムでの生活、ベトナム人との仕事、日本との違いなどをインタビューしていますが、少し趣を変えて、日本生まれ日本育ちのベトナム人、カオ・ミン・ケンさんにインタビュー。今回はその最終章です!
前編 では日本での学生時代と日本での就職の話、 中編 ではシンガポール国立大学でMBAを取得した話に分けてお話しして頂きました。
そして今回の後編では、キャリア観や豆腐屋を始めるきっかけとなったお父様の話などボリューム満点。次なるステージへと向かうカオ・ミン・ケンさんに迫ります。
キャリアに悩んでいる方へのメッセージ
− カオさん、とうとう最終章となりますが、ベトナムに来てからの話を是非お願いします。
カオ: はっきり言って、ベトナムのことはまだ分からないことも多いです。 基本的にうちの会社はローカルの人達においしい食文化を広めていきたい ので、そこにフォーカスを当てた経営をしたいと思っています。
理由は 父親も自分も日本とベトナム両方の文化を知っているから です。
こんにゃくやしらたきなども広めていくつもりですが、今のところしらたきは、ベトナム人はほとんど食べません。しかし、売れる素地はあると予感しています。
もし上手くいったら、ローカル層はボリュームゾーンなので、一大マーケットが生まれます。そうしたら、雇用もたくさん生まれますし、それが一番の社会貢献ですよね。だからこそ、規模を求めてローカルを狙っていきます。
−ローカル層を狙いたい思いがひしひしと伝わってきました。
カオ: 話が少し変わるけど、この記事を読んでいる方で自身のキャリアについて悩んでいる人もいると思います。今の会社でくすぶっていてキャリアを変えたい、でもどんな仕事がいいか分からない、みたいな。
私の経験から一つお伝えすると、 過去の自分を振り返ってみるのが大事です。
「自分が一番輝いていたのはどんな時だったかな」「どんな時ワクワクしていたかな」というのを突き詰めてみるのが良い と思います。
今の職場で全然評価されずに自信喪失している人も、そんなことはない。 どんな人でも過去にキラキラ輝いた経験があるはずです。 ワクワクしながら自分の力を発揮して、周囲に一目を置かれた経験があるはずです。
そのときを思い出して、自分はなぜ輝けたのかを突き詰めて、それを次の仕事にしていければ良いキャリア人生を送れると思います。
私の場合も同じで、サラリーマン時代はくすぶることも多かったです。その時、自分が一番輝いていた学生時代のベトナムボランティア経験を思い出していました。その結果、会社を辞め、MBA留学を決意し、今ここにいます。今は毎日楽しく仕事をしています。
今にして思う、MBAで学んだこと
−さて、実際にMBAで学んだことは仕事で活用されていますか?
カオ: 鋭い質問です。MBAで学ぶケーススタディーは、意思決定をするにあたっての最低限の情報が与えられているのが普通です。「自社の財務状況はこうで、競合はこうで、市場規模はこうこうです。以上から、どのようにして競合と戦いますか?」みたいな感じです。
でも、新興国での実際のビジネスは、そもそも前提となる情報がなかなか手に入らない。自社の財務諸表ですらあてにならない。情報が無さ過ぎます(笑)。
例えば、ベトナムの豆腐の競合シェアがそれぞれどれくらいで、各社売上がどのくらいなんてわからない。なんとなくスーパーで置かれている商品の量をみて、「うち今シェア2位くらいかな?」ってそんなレベルです。
そういった意味では学んだこととのギャップは多くて、手探りの中でやっています。 一歩ずつ一歩ずつ、将来の目標に向けてこれから頑張って前進しようと思っています。
ベトナムで起業した父について
−逆に新興国で会社を立ち上げる楽しさがあるのかもしれませんね! 順番が前後しますが、お父様はどうして豆腐屋を?
カオ: うちの会社は9年前にできたスタートアップで、父親が早期退職して立ち上げた会社です。
丁度ベトナム戦争時に東工大に留学して、電気機器メーカーで技術者として研究開発畑で働き、リニアモーターカーの研究などもしていました。全然食品関係無いですよね。(笑)
なのに突然「俺は豆腐屋する!」と言い出して、急にベトナムで豆腐工場を作り始めたんです。何で豆腐を始めたか、当初は家族も誰一人として、理解できませんでした。
専門がリニアモーターカーだったけど、父親も祖国ベトナムに貢献したいという気持ちはあったみたいです。でも、リニアモーターカーは規模が大きくて、ベトナムで一人ではできない。
こじんまりと貢献できることを考えていた時に、丁度ベトナムのニュースが流れてきました。 建設用の石灰で豆腐を固めていたこと がその当時問題となっており、 これはチャンスだと感じた そうです。 日本式の安全・安心の美味しい豆腐を作ったら売れる! と。
そこで、試しに自家製豆腐を家で作ってみたら、「想像以上に美味しかった!」というのが、日本式の豆腐をベトナムで作ろうと考えたきっかけのようです。
未経験からのスタートでしたが、 日本製の機械を導入し、日本人から技術指導も受けました。 そのおかげもあり、 うちの豆腐や納豆、こんにゃく、しらたきは本当にうまいですよ! パッケージがローカル向けなので、日本人は手に取るのを敬遠しがちなデザインですが、 味は完璧です。しかも安い。
その証拠として、今はロッテマートやAEONなど、ベトナムのほとんどの大手スーパーでうちの商品を取り扱ってもらっています。
リニアモーターカーも豆腐も、ものづくりという観点では同じです。よりよいものを作るためには「仮説→検証」を繰り返すことが重要で、それはどんなものを作るときでも一緒。リニアモーターカーの専門家である父が市場に受け入れられる美味しい豆腐を作れたのも、そういうところに理由があるのだと思います。
今まではその技術力のみで会社はここまで成長してこられました。これからは更なる成長に向けて今まで足りなかった部分、例えば営業強化や会計・財務の部分もしっかりと見ていく必要があります。それは営業畑を歩み、MBAで経営を学んだ自分の役割だと感じています。
そして従業員全員で力を合わせて、会社を次のステージに進めていきたいと考えています。
−次のステージとは?
カオ: 更なる拡販に向けて、 会社としての体制を整えることです! そのためには、営業強化、オペレーションの改善、財務状況の精査などなどやることは山ほどあります。
−今回は貴重なお話を有難うございました!!
前編と中編の内容が気になる方は以下をご覧ください。
>> 前編では、ベトナムローカルマーケットを狙うその背景を公開!→ こちら
>> 中編では、シンガポール国立大学でMBAを取得した話を公開!→ こちら
カオさんの会社はこちらです→ 「Vi Nguyen(ヴィ・グエン)」