困った人の為なら何のその、無償で少女に臓器提供

2011/02/08 08:49 JST配信

 ハイフォン市に住むある家族から提示された5万米ドル(410万円)の報酬を固辞し、貧しい家庭の子供への臓器提供を選んだ同市ミンフー村のブー・クオック・トゥアンさんは、その慈善心が讃えられ、第8回全国愛国コンテストで代表に選ばれるという栄誉を得た。

(C) VNExpress, Hoang Thuy
(C) VNExpress, Hoang Thuy

 農家に生まれ、生活は苦しく父親は病気がちだったため、トゥアンさんは若い頃から一家を支える役目を負った。高校卒業後、映画芸術大学に合格するが、入学して1か月も経たないうちに父親の危篤の知らせを受ける。荷物をまとめて慌てて帰郷するが、それが大学との別れとなるとは思ってもみなかったという。

 その後まもなく父は亡くなり、母は父の治療費のためにつくった借金を前に途方に暮れ、妹達もまだ幼かった。トゥアンは勉学をあきらめ、家族を助けるために働いた。2008年、小児病院で警備の仕事をしている時、彼はたくさんの痛ましい子どもたちの現状を見た。中でも当時6歳のタ・ティ・トゥー・ハーちゃんはひときわ彼を何とも言えない気持ちにさせた。ハーちゃんは週に3回母親に連れられ自転車で病院に来ては人工透析を受けていたが、病気と闘う娘を見て母親はいつも泣いていた。

 ある思いがトゥアンさんの頭をよぎる。「この子に自分の腎臓をあげよう」しかし彼は探し当てたハーちゃんの家でさらにつらい状況を目の当たりにする。家は貧しく、ハーちゃんの父は傷病兵で体が弱かったため、一家の家計は母親一人の肩にかかっていた。ハーの人工透析の費用も借金をしてまかなっていたのである。

 一家を訪ねた後、トゥアンさんは小児病院の医師の所に行き希望を伝えた。それまでに臓器提供の申し出は1件もなく、病院が思ってもみない出来事だった。自分の家族のこともよく考えるよう諭したが、彼は充分に熟考した結果だと引かなかった。

 とは言うものの、臓器提供は簡単なことではない。2人の体の相性を調べたり、いくつもの複雑な検査を受けなければならない。60回以上もの検査の間には、痛みや疲れで投げ出したくなるときもあったという。その検査は8時間もじっと横になって脈を取ったり、大きな針を脊髄に打たれたりというものだ。それでもハーちゃんの姿を思い浮かべ、もし自分が臓器提供しなければハーちゃんは死んでしまうのだと自分を励ました。

 最初の検査を受けた2008年の3月19日から10月20日に手術台へ上がるまで、トゥアンはただひたすら検査を受け続けた。その間、トゥアンさんが仕事を出来ない代わりに彼の妻がマレーシアに出稼ぎに行ったが、経済危機の影響もあり二人の子供の養育費のために借金をしないといけなくなるほどだったが、それでも彼は検査に耐え続けた。

 8時間にわたる大手術の後、トゥアンさん彼が発した言葉は「先生、ハーちゃんはどうですか?」だった。「手術は成功しましたよ」その言葉に彼は泣いて喜んだ。丸1か月入院して体力を戻し、一つの生命を救ったことへの充足感が残った。ハーちゃんの家族は謝礼を支払うと言ったが、「そのお金はハーちゃんのために使ってください」という言葉を残して彼は去った。

 トゥアンさんが検査を受け続けている時、そのことを聞いたハイフォン市の一家が訪ねてきて、5万ドル出すから自分の子供に臓器を提供してほしいと言ってきた。その時、彼はすぐに「あなたはお金持ちだから他で探せるでしょうけど、あの子どもは自分が提供しなければ死んでしまうのだ」と言って追い返したのだという。

 手術の後、トゥアンの体力は落ち、以前まで簡単だったことがそうではなくなっていた。検査費用や妻の出稼ぎ費用のために借りた借金が重くのしかかっていた。途方に暮れているところに、17機器会社の社長チュー・テー・ティンさんが彼を拾ってくれた。「もし社長が声をかけてくれなかったら、私の家族の生活はどうなっていたか分からない。ラインでの仕事はそれほどきつくはなく、収入は十分だった。社長には本当に感謝している」彼は打ち明ける。

 ハーちゃんの命を救うことは彼にとってはそれほど大ごとではなかった。それまでにも、人を思いやる性格からたくさんの困難にあった人を助けてきた。

 2007年に東北部トゥエンクアン省へ行った時、二人の幼い子どもたちが大量のサトウキビを運んでいて、サトウキビが崩れ落ちそうになっていた。彼がさっと駆け寄り助け出したため子供は無事だったが、彼自身は骨折を負ってしまった。

 家に帰っても彼は家族にそのことを話さず一人で痛みに耐えていたが、それが続くのでとうとう病院へ行った。そこでまた彼は抱き合って泣く家族に遭遇する。訳を訪ねると娘が重傷を負ったが輸血する血液が足りないのだという。そこで彼はすぐに医師をつかまえ輸血を申し出る。O型のため誰にでも献血できるのだ。「輸血は初めてだったが怖くはなかった。医師にすぐにでも必要な血液を採ってくれと頼んだ。そうしないと女の子が死んでしまうと思ったから」。

 500ミリリットルの血液を輸血した後、名も告げずに立ち去った。しかし彼が書いた出身地をたよりに家族は彼を探し当てた。家族もまた裕福ではなかったが、お礼にと彼に小児病院での警備の仕事を紹介してくれたという。

 建設現場などで働いていた頃には、トゥアンさんは3度も腹痛で倒れた人を病院に担ぎ込んだことがある。小児病院で勤務していたときも、彼は何度も病人の入院の世話や手術の手続きを手伝った。バイクタクシーの運転手をしている時には、困難な状況にある人を幾度も無料で乗せてあげた。

 「困っている人に会うといつも、ここで自分が助けなかったらこの人は死んでしまうだろう、とだけ思うんです。私自身も恵まれた境遇ではありませんが、だからこそ彼らの気持ちが痛いほどわかるのです。出来ることなら何でもやりたい。腎臓を提供することでさえも。」38歳のトゥアンさんは言う。

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