ハノイ市ホアンマイ区の小さな下宿に、結婚からわずか3か月後に寝たきり状態になった夫を10年にわたり献身的に介護する女性がいる。椅子の背にもたれながら座る夫の口にスプーンでご飯を運び、食事が済むと真一文字に口を結び痩せた腕で夫を抱えベッドに移す。やっとの思いで夫をベッドに横たわらせた頃には、女性の顔には汗が浮かび髪の毛が張り付いている。
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女性の名前はグエン・ティ・トゥー・チャンさん(39歳)。東北部地方フート省ベトチー市にある結婚式の前撮り専門の写真店で会計係として働いていた時に、その後夫となる同い年のグエン・バン・チュンさんと知り合った。西北部地方イエンバイ省出身のチュンさんは、高校を卒業するとチャンさんの働いていた写真店で見習いカメラマンとして働きだし、2人は意気投合。ほどなくして交際が始まり、1年後の2009年に結婚した。
しかし幸せな結婚生活は長くは続かなかった。結婚からわずか3か月後のこと、チュンさんはバイクで仕事終わりのチャンさんを迎えに行く途中で外国人が運転する自動車に衝突され、脳に損傷を受けて全身不随に近い重篤な障害を負った。フート省とイエンバイ省で治療を受けたが、症状が良くなることはなかった。
事故から1年後、加害者が治療費を補償しハノイ市でリハビリを受けるようになると、チュンさんは左手を少し動かせるようになり、いくつか言葉も発せられるようになった。しかし治療費は底をつき、ここ2年程はチュンさんが言葉を発することはほとんどなくなった。
「加害者が入院費などの費用を全て補償してくれたので夫は今まで生きてこられました。加害者は自分の職場で私を雇い、住居も提供すると申し出てくれましたが、それでは物乞いと同じですから、お断りしたんです」とチャンさん。