ベトナム経済を振り返る:国内総生産(GDP)成長率編 2025年版

2026/02/14 09:58 JST配信

ベトナムのマクロ経済と金融市場

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 ベトナム経済は近年、高い実質国内総生産(GDP)成長率を維持している。製造業を軸とする輸出の拡大と安定的な海外直接投資(FDI)の流入を背景に、東南アジア有数の成長市場としての地位を確立しつつある。一方で、世界的な金融引き締めや地政学リスクの高まりを受け、為替や資本移動、金融システムの安定性を巡るマクロ経済面での調整圧力も顕在化している。

 本稿では、ベトナムのマクロ経済構造とその変遷を整理した上で、対外収支、為替動向、金融政策、銀行・株式市場の動きを横断的に分析する。高成長の持続とマクロ安定性がいかに両立されてきたのかを検証し、投資環境を評価するための基礎的な視点を提示する。

統計数字について

 ベトナムの経済動向を分析する際の主な情報源は、財政省傘下の統計局(NSO)やベトナム国家銀行(SBV)が公表する統計、ならびに世界銀行(WB)など国際機関のデータである。ただ、これらの統計は主として国営企業や上場企業、外資系企業を対象としており、人民軍・人民公安系企業や個人事業主の活動を十分に反映しているとは言い難い。特に都市部では統計値と実態との乖離が指摘される場面も少なくない。

 このため、実際の経済規模は公表値を上回る水準にある可能性が高い。農村部では自給的消費の比重が大きく、こうした活動が統計に十分反映されないことから、1人当たりGDPの水準に比べ生活実感が相対的に高く見える要因となっている。

 こうした状況を踏まえ、政府は統計捕捉の強化を進めている。2025年6月以降、年間売上高10億VND(約600万円)以上の個人事業主に対し、税務当局とデータ連携が可能なレジから発行される電子インボイスの使用を義務化した。統計対象を拡大し、経済実態の把握精度を高める狙いだ。

マクロ経済:国内総生産(GDP)成長率

■ドイモイ政策と外資導入が支えた長期成長

 ベトナム経済の成長を支えてきたのは、1986年に始動したドイモイ(刷新)政策を基盤とする外資導入の拡大と、都市部を中心に拡大した民間企業活動である。1997年のアジア通貨危機の影響は受けたものの、1995年以降は海外直接投資(FDI)が継続的に流入し、農水産加工や軽工業の発展を下支えした。

 ドイモイ政策の核心は、中央集権型の計画経済から市場メカニズムを取り入れた体制へ移行し、複数の経済主体の存在を認める点にある。民間部門を重要な担い手として位置付けながら、社会主義志向の市場経済を段階的に形成してきた。

■投資ブームと国際統合の進展

 対ベトナム投資の拡大は、対外関係の進展と軌を一にしてきた。1995年の米国との国交正常化前後は「第1次投資ブーム」、2007年の世界貿易機構(WTO)加盟前後は「第2次投資ブーム」と位置付けられる。

 WTO加盟後も国際経済との統合は加速した。日越経済連携協定(VJEPA、2009年発効)や、ベトナム韓国自由貿易協定(VKFTA、2015年発効)、ユーラシア経済連合(EAEU)との自由貿易協定(VN-EAEU FTA、2016年発効)、包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP、2019年発効)、ベトナムEU自由貿易協定(EVFTA、2020年発効)など、二国間・多国間の貿易協定を相次ぎ締結した。これらの枠組みは、市場アクセスの改善と制度信頼性の向上を通じて外資誘致の基盤となっている。

■外交関係の拡充と投資環境の安定化

 経済統合の進展と並行し、外交関係の強化も進んだ。2023年には米国との関係を包括的・戦略的パートナーシップへ格上げし、経済・安全保障を含む幅広い分野での協力を拡大した。

 これを契機に他国・地域との同様の枠組みも拡大した。2026年1月時点で、◇中国(2008年)、◇ロシア(2012年)、◇インド(2016年)、◇韓国(2022年)、◇米国(2023年)、◇日本(同)、◇オーストラリア(2024年)、◇フランス(同)、◇マレーシア(同)、◇ニュージーランド(2025年)、◇インドネシア(同)、◇シンガポール(同)、◇タイ(同)、◇英国(同)、◇欧州連合(2026年)の計15のパートナーに広がっている。こうした外交ネットワークの拡充は、通商・投資環境の安定性を高め、外資にとってのベトナムの位置付けを一段と強固なものにしている。

■GDP規模の拡大と高成長の持続

 ベトナムのGDPは1990年代以降、名目ベースで拡大を続けている。2025年の名目GDPは5140億USDとなり、初めて5000億USDを超えた。ドイモイ政策以降の市場経済化と国際統合が、長期的な成長を下支えしてきた形だ。

 実質成長率も長期にわたり+6~8%台の高水準を維持してきた。世界金融危機や新型コロナウイルス禍では一時的に減速したものの、2022年は+8.02%と急回復した。2024年は+7.09%、2025年も+8.02%と高成長が続いている。外部ショック後の回復が相対的に早い点が特徴といえる。

■産業構造の転換と内需拡大

 経済構造の転換も着実に進んだ。農林水産業のGDP比率は1990年代初頭の約4割から2025年には約1割まで低下した。一方、工業・建設業は同2割から4割弱へ上昇し、製造業が成長の中核を担う構図が定着した。サービス業は2025年に4割強を占め、最大部門となった。商業、物流、金融、観光の拡大により、輸出主導型に加え内需の寄与も高まりつつある。

■1人当たりGDPと生活水準の向上

 2025年の1人当たり名目GDPは5026USDとなった。1995年の越米国交正常化以降、おおむね増加基調が続いており、2025年は1995年比で17.5倍に拡大した。5000USD台への到達は、消費中心の段階から資産形成や金融投資が拡大する局面に入りつつあることを示している。

 購買力平価(PPP)ベースでは、2024年の1人当たりGDPは1万6386USDとなる。東南アジアではフィリピンを大きく上回り、インドネシアをやや下回る水準に位置する。名目値に比べ生活水準が相対的に高い点が特徴といえる。

 東南アジア各国のPPPベース1人当たりGDPは、◇シンガポール:15万0689USD、◇ブルネイ:8万9879USD、◇マレーシア:3万8779USD、◇タイ:2万4712USD、◇インドネシア:1万6448USD、◇フィリピン:1万1794USD、◇ラオス:9776USD、◇カンボジア:7967USD、◇ミャンマー:5997USD、◇東ティモール:4423USD。参考として、日本は5万1685USDで、ベトナムの約3.2倍に相当する。

■新たな成長段階に向けた課題と展望

 2025年は省・市再編や党・国家機構のスリム化など、統治体制に踏み込んだ改革が進められた。行政効率の向上と政策決定の迅速化を図り、成長分野への資源配分を強化する狙いがある。同時に、交通・物流・エネルギーなどのインフラ整備、人材育成への投資、デジタル・人工知能(AI)・半導体分野を軸とする産業高度化、さらには高度技術分野への外資誘致といった取り組みも進められており、成長モデルの質的転換を下支えしている。

 こうした流れの中で2026年1月に開催された第14回党全国大会は、ベトナムにとって次の「ドイモイ」を方向付ける節目と位置付けられる。同大会では「中所得国の罠」への警戒を背景に、安価な労働力や資源投入に依存してきた従来型の成長モデルを見直し、知識・データ・先端技術を重視する付加価値型成長へ移行する必要性が明確に示された。高成長路線を維持しつつ、その基盤を強化するため、持続性と国際競争力を重視する成長モデルへ政策の重心を移していく姿勢を示したものといえる。中長期のベトナム経済運営を読み解く上で、重要な視点となる。

[2026年2月11日 ベトジョーニュース A]
※VIETJOは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。
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