ハノイ市ソンタイ町(thi xa Son Tay)でタクシー運転手をしているハー・ドゥック・フンさん(男性・54歳)が600万VND(約3万6600円)の乗り逃げ被害に遭って途方に暮れていたところ、事情を知った大勢の人々が寄付や客の紹介を申し出てくれた。
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フンさんは3日午後9時ごろ、ソンタイ町の文廟で客が待っているとの無線連絡を受けて現場に向かった。到着してみると、小さなカバンを持った20代と見られる若い男性が待っていた。男性は、自身を少数民族のモン族だと語り、キン族の言葉はうまく話せないと主張。家族の急用のため、西北部地方ディエンビエン省ムオンチャー郡(huyen Muong Cha)まで車をチャーターしたいとのことだった。
ディエンビエン省までは500km以上もある。行き先を聞いたフンさんは、バスターミナルからバスで向かうように勧めて断ろうとしたが、男性が懇願するので、つい気の毒に思い、目的地まで乗せることを承諾した。
フンさんは、ガソリン代を計算して目的地までの運賃は途中の通行料を除いて600万VNDかかると提示。男性はこれに合意したが、手持ちが400万VND(約2万4400円)しかなく、家に着いたら残りを支払うと約束した。
翌日の午前8時には到着すると見込んでいたが、山腹に沿った道路は曲がりくねって走りにくく、道にも不慣れだったため、ムオンチャー郡の市場に到着したころには既に正午になっていた。フンさんが電話で話していると、男性はトイレに行くので少し降ろしてほしいと依頼。10分余りが過ぎても戻ってこないことを不審に思って様子を見に行ったが、そこに人影はなく、乗り逃げされたことに気が付いた。
市場にいた人々が、何やら様子がおかしいことに気づき、手分けして一緒に乗り逃げ犯を探してくれたが、男性は既に逃走した後で見つからなかった。フンさんは、「客を信用していたので、前金も要求しなかった。こんな広い山の中のどこを探せばいいのか」とため息交じりに話した。夜通し走って高額な運賃を乗り逃げされたことを気の毒に思った人々は、食べ物や飲み物を差し入れて励まし、フンさんは人々に感謝して帰路に就いた。
ハノイ市のタクシー運転手が乗り逃げ被害に遭ったという情報は、直ぐにソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿されて人々の関心を集めた。
この投稿を見たディエンビエン省タクシー協会所属のグエン・バン・ハイさん(男性・28歳)は、10年余りのドライバー経験で、何度も同様の被害に遭ったことを思い出し、同僚と協力してフンさんとのコンタクトを図った。数分後には、仲間のドライバーたちから600万VNDの寄付金が集まった。ハイさんは、ドライバー仲間1人とムオンチャー郡に向かい、途中でハノイナンバーの車を見つけたため、道路脇に停まるよう指示して、詳しい話を聞いた。
話を聞く中で、被害に遭ったタクシー運転手に違いないと確信したハイさんは、ドライバー仲間から集めた寄付金を受け取って欲しいと申し出たが、フンさんは「ありがたいけど、気持ちだけ受け取っておくよ」と話し、寄付金の受け取りを辞退した。
ハイさんによると、フンさんは「もとはと言えば自分の不注意から招いた事態。ハノイまで戻るためのお金はあるので、寄付金の受け取りは辞退したい」と話したという。フンさんを心配したのは同業者だけではなかった。大勢のディエンビエン省の人々からもガソリン代を寄付させてほしいと連絡があったが、フンさんはこれらも丁重に断った。
別れ際、フンさんは「心配してくれた皆さん、本当にありがとう。皆さんの優しさは決して忘れません。いつかハノイで皆さんをお迎えしたいと思います」と語った。
また、ハイさんたちのグループは、西北部地方ソンラ省からハノイ市に向かう客の連絡先を紹介したが、フンさんは道に不慣れで、客に迷惑をかけると思い、あえて連絡しなかった。なお、フンさんは5日午前10時に無事ハノイに戻ったという。