東北部バクザン省バクザン市トスオン地区には、フランス植民地時代にフランス軍が戦争用に酸を生産していた「酸の丘」と呼ばれる場所がある。恐ろしげな名前を持つこの丘だが、今では松林や立派な家が立ち並び、頂上付近には恵まれない子供たち30人が共に暮らす「幸福の家」として知られているティエンフック人道センターがある。
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センターといっても公立の施設ではなく、2人の子供を持つ母親グエン・ティ・ソンさんが切り盛りしている民間の施設だ。2棟の建物から成るこのセンターが設立されたのは1年前と最近だが、ソンさんは数十年以上前から恵まれない子供たちを引き取って育ててきた。
ソンさんが今でも心残りに感じているのは、フーという名前の男の子のことだ。彼女が23歳の時、精神を患った母親と小さな子供が家の門の前で倒れているのを発見し、母子とも家でしばらく預かることにした。3年後に親戚が現れ母親を引き取ったが、フーはそのままソンさんが育てることになった。しかしその後、実の叔父がフーを金(きん)採掘業者に売り飛ばす事件が起きた。ソンさんは夫と共に各地を探し回ったが、ついにフーの消息はつかめなかったという。
今センターでは、枯葉剤(エージェント・オレンジ)の影響を受けた父親を持つ言語障害の双子の姉妹、3歳のとき大人の不注意で熱い油を浴び障害を持ってしまった子供、親の都合で置き去りにされた子供など、それぞれの事情を抱えた子供たちが暮らしている。