世界遺産の街・南中部沿岸地方クアンナム省ホイアン市旧市街。この街は、そこに住む人々の暮らしこそが魂だが、近年、旧市街の古民家の売却が相次いでいる。
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ホイアン市旧市街のチャンフー(Tran Phu)通り、グエンタイホック(Nguyen Thai Hoc)通り、レロイ(Le Loi)通り沿いでは今、多数の古民家が、数百億VND(100億VND=約5800万円)という値段で売りに出ている。売主の多くは、商売のためにホイアン市に住んでいた人々から古民家を購入した、ハノイ市やホーチミン市の人々だ。
コロナ禍で観光業界は深刻なダメージを受け、観光客の戻りもはかばかしくない。古民家を借りて商売をしていた人々は、家賃が高止まりする中、戻らない客足に店を閉めて引き払い、こうして借り手のいなくなった古民家の持ち主が、物件を売りに出しているというわけだ。
ホイアン市旧市街に昔から住む人には、数百年受け継いできた家を次世代に残したいと考える人もいる。グエンタイホック通りに住む女性トゥイさんは、コロナ禍前に400億VND(約2億3300万円)あまりで売却を打診されたものの、何世代にもわたって暮らしてきた場所だとして首を縦に振らなかった。しかしながら、トゥイさんのようなケースは多くはなく、この通りのほとんどの古民家が、かなり前に売却されている。
現在ホイアン市には、1000軒あまりの古民家が存在するが、うち70%は民間の所有物で、このうち所有主がホイアン市の人である例は30%しかない。
ホイアン文化遺産保存管理センターのファム・フー・ゴック所長は、旧市街の遺跡が商品化していると指摘する。しかし法律で売買、譲渡が禁じられているわけでもなく、50軒もの古民家が売買されるような年もあるという。
ホイアン市のグエン・バン・ソン人民委員会主席によると、1000軒あまりの古民家のうち、国が管理しているものは100軒ほどで、これらについては老朽化に対して規定に則って修繕することができるが、ハノイ市やホーチミン市の人々が所有する古民家は、商売の目的で購入されている場合が多いため、商売用の改修などが施されるだけで、管理が難しいという。
ソン氏は、ホイアン市旧市街の「魂」も消えつつあると指摘する。以前は、住まいであり、商売の場であり、祈りの場であった古民家が、今はただ商売の場でしかなくなり、これが現在のホイアン市にとっての頭痛の種だとしている。