夜11時、警備員のフア・ニョン・ハウさん(男性・58歳)は、橋の欄干のそばに停まっているバイクと、欄干の外側に座って顔を手で覆い、泣きながらとうとうと流れる川を見下ろしている若い女性を発見した。
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南部メコンデルタ地方カントー市に架かるカントー橋の警備員を10年以上務めているハウさんは、この女性が自殺しようとしているのだと気づいた。警戒させないよう、慌てずにゆっくりと女性に近づき、「こんなに遅い時間に、寒い中、そこで何をしているんだい?」と尋ねた。ハウさんが言い終わると、女性はさらに大きな声で泣き始めた。
ハウさんはいったん警備の仕事を止めて地面に座り込むと、橋から飛び降りようとしている女性をなだめ、思い止まらせるという「やむを得ない任務」に取り掛かった。
女性は橋の淵ぎりぎりの場所に座ったまま語り始めた。「私はベンチェ省に住んでいて、恋人はカントー大学の学生です。今日は彼に会うためにバイクでここまで来ましたが、彼は現れなかった。きっと彼は私と別れるつもりなんです。これ以上生きていても、意味がありません」。
「私は短気なので、理由を聞いてすぐに叱りたくなりましたが、我慢して話を聞き続けました」とハウさん。10年以上この仕事を続けている経験から、泣きながらも問いかけに答えられる人は、まだ本気でこの世を去ろうとする勇気がないことをハウさんは知っている。
そういった人たちに大きな声を掛けて道行く人々の注意を引いてしまうと、恥ずかしさからパニックになり、そのまま川に飛び込んでしまう場合もあるため、ハウさんはそっと話しかけるようにしている。
ビンロン省とカントー市を結ぶハウ川に架かる、全長約3kmの橋の上にしゃがみ込み、ハウさんは約2時間も女性の恋愛話を聞き続けた。風除けの上着を着ていたものの、冷えて手がかじかみ、声も震えるほどの寒さだ。
「その彼があなたをもう好きでないなら、あなたが今この世を去ったとしても何の痛みも苦しみも感じず、すぐに新しい恋人を作るだろうよ。さあ、私と一緒に来て警備員室で温かいお茶でも飲もう。話の続きはそれからだ」とハウさんは女性に伝えた。
女性は説得を受け入れて欄干の内側に戻って来たものの、まだすっきりしない様子で、ハウさんはその晩の勤務時間を使って女性の話を聞き、時々アドバイスをした。「女性が橋の内側に戻って来てくれて幸運でした。橋の上に座り続けてトイレに行きたくなっても、自分が居ない間に何かあったらと心配でその場を離れられないケースもたくさんありますから」とハウさんは打ち明けた。