2人はプロのサイクリストではない。出発前に中古の自転車を2台購入し、20日間ほど練習した。出発の日、忙しい仕事の合間を縫って練習していたその2台が、そのまま長旅の相棒となった。
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「最初はもっと軽くていい自転車に買い替えようと思っていました。でも、もう脚もこの古い自転車に慣れてしまって。だからそのまま行くことにしました」とトゥイさんは語る。
南部メコンデルタ地方からハノイ市までの道中、焼けつくような日差しから絶え間なく降り続ける雨、大嵐まで、ありとあらゆる過酷な天候を経験した。北中部地方フエ市と南中部地方ダナン市の間にそびえるハイバン峠では、2人とも自転車を押して歩くしかなかった。カー峠やガン峠でも同じだった。
「ゲアン省(北中部地方)のあたりでは台風5号(アジア名:カジキ、日本では台風13号)に遭遇しました。ハノイ市に到着するのが建国記念日に間に合わないのではないかと心配で、嵐の中を進みました。風雨の中、11時間半も自転車を漕ぎ続けて、脚がくたくたになった日もあります。地滑りが起きたあたりを通った時は、冠水して水がサドルの近くまできていて、バイクは何台もエンストしていました。それでも、私たちの古い自転車2台は不思議と無事に通過できたんです。まるで誰かが守ってくれているような気がしました」と、トゥイさんは話す。
旅の間、2人は節約のために1日に夜の1食しかとらず、あとは水だけでしのいでいた。それはお金がないからではなく、節約した分を「恩返し基金」に寄付したかったからだ。
トゥイさんは、旅の様子をソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿し始めた。最初はほんの数人が関心を示すだけだったが、徐々にフォロワーも増え、多くの人が2人の旅に感銘を受けて応援の寄付金を送ってくれるようになった。