森に帰ったゾウ~ベトナム最後のゾウたち~【前編】

2019/05/05 05:30 JST配信

 ゾウはとても知能が高く繊細な動物で、重労働の使役環境下での繁殖は非常に難しい(*3)。新しいゾウは、よって野生から捕獲調達されてきた。

(C) Miwa ARAI
(C) Miwa ARAI

 大きなゾウは捕獲も調教も困難なので、赤ちゃんゾウを罠で仕留める(*4)。その多くは、ようやく一人歩きを始める3~4歳の子供だ。突然母親を失った彼らは、パニック状態で攻撃的になる(*5)。調教するにはまず、人への絶対服従を理解させなくてはならない。捕らえられた小象はすぐに四肢を縛られ、餌も水もなしに手鉤や刃物で暴力を受け続ける“クラッシュ(破壊)”の洗礼を受ける。数日から数週間続くこの工程で、小象は精神的・肉体的恐怖で完全に“破壊”される。

 ゾウは賢く記憶力が強い。この記憶が彼らを一生支配し、手鉤を見るだけで人の指示に従う使役象とさせるのだ。野生の動物には、人の指示に従う本能も経験もない。“象乗り”のゾウは、優しさや友情で観光客を乗せて歩くのではない。何十年も所有している自分のゾウに乗るときでも、象使いは必ず手鉤を持ち、人が乗っていない間のゾウの足は、重い鎖で縛られている。

*3:ベトナムでは使役象の出産の記録は40年間ない。    

*4:罠は、落とし穴や、茂みの中に仕込んだリング式ワイヤーで足を挟むものが多く、発見・保護されても足の傷のせいで死に至る例も多い。象の狩猟・捕獲は、1996年以来法律では禁止されている。

*5:アジア象の家族の絆は強く、メスは寿命約60~70年の一生を、家族の群れと共に過ごす(雄は8~13歳で独立する)。妊娠期間は約22か月(哺乳類の中で最も長い)で、一度に一頭しか出産しない。2年近くお腹の中で育まれた赤ちゃんは、半年以上母乳で育てられ、乳離れには3~5年かかる。母親はその間は次の妊娠をせず、小象は群の全員に守られ、大切に育てられていく。知能の高さだけでなく、社会性や仲間の死を悼む行動等、感情的にも高度な繊細さを持つことが確認されている。

象乗り観光 歩かない間のゾウは鎖でつながれている。

このゾウは、左右の前足に鎖をかけられ全く動けずにいた。

前へ   1   2   3   4   次へ
※VIETJOは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。
© Viet-jo.com 2002-2025 All Rights Reserved 免責事項

この記事の関連ニュース

 南中部高原地方ダクラク省ブオンドン郡のブオンドン吊り橋観光センターは10日、観光客向けの「象乗りツ...
 南中部高原地方ダクラク省ラク郡リエンソン町(thi tran Lien Son, huyen Lak)に住むロンさんは9日、ゾ...
 南中部高原地方ザライ省イアパ郡チューモー村(xa Chu Mo, huyen Ia Pa)在住のシウ・キエムさんは12月4...
 南中部高原地方ダクラク省は、長きにわたり観光客を誘致してきた「象乗りツアー」から、「ゾウに優しい...
 世界自然保護基金(WWF)がこのほど南中部沿岸地方クアンナム省ノンソン郡(huyen Nong Son)にあるゾウ保...
 国内初の「助産師」のゾウとして知られる「フバン(H’Ban)」が10日、地元の南中部高原地方ダクラク省ラ...
(※本記事はVIETJOベトナムニュースのオリジナル記事です。) 前編 →
(※本記事はVIETJOベトナムニュースのオリジナル記事です。) 前編 →

新着ニュース一覧

 英国の大学評価機関クアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds=QS)が発表した最新の大学ランキング...
 世界最大級の宿泊予約サイト「ブッキング・ドットコム(Booking.com)」はこのほど、6月のプライド月間(L...
 米マイクロソフト(Microsoft)が発表した調査報告書「ワークトレンド指数(Work Trend Index)」2025年版...
慣れない海外生活、急病や事故
何かあってからでは遅い!
今すぐ保険加入【保険比較サイト】
(※本記事はVIETJOベトナムニュースのオリジナル記事です。) 【ロンドン編】はこちら 【パリ編】は
 在ベトナム米国大使館は18日、巡視船「CSB8022」をベトナム海上警察に引き渡したと発表した。越米間の...
 宅配を手掛ける地場ゴゾ・エクスプレス(Gozo Express)は18日、地場系コングロマリット(複合企業)
 最先端の機械学習テクノロジーを活用してモバイル資産を識別・評価・最適化する米国のラウンズ(Rounds)...
 サイゴンハノイ保険[BHI](Sai Gon-Ha Noi Insurance Corporation)は、韓
 ホーチミン市7区のサイゴンエキシビション&コンベンションセンター(SECC:799 Nguyen Van Linh, quan ...
 ベトナムは、ライチの生産量で中国に次ぐ世界2位となっている。  2025年の収穫量は約30万3000tで、...
 地場系コングロマリット(複合企業)ビングループ[VIC](Vingroup)傘下の電
 ハノイ市ノイバイ国際空港で、ベトナム人乗客による日本円の違法持ち出しが発覚した。税関当局が18日に...
 国内IT最大手のFPT情報通信[FPT](FPT Corporation)はこのほど、東南部地
 国会は18日、エネルギー使用効率化法の一部を改正・補足する法律を可決した。同法は2026年1月1日に施行...
 持田製薬株式会社(東京都新宿区)とMeiji Seikaファルマ株式会社(東京都中央区)は、持田製薬が日本で販...
トップページに戻る