「自閉症の人の脳はまっすぐに物事をとらえるので、嘘や比喩、社交辞令は通じません」とチュンさんは話す。しかし、そのフラットな世界観は、しばしば健常者の複雑な現実と衝突する。チュンさん自身も何度もこの問題に直面してきた。
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2018年のテト(旧正月)間近のころ、チュンさんが1階で仕事をしていると、上の階から物音が聞こえた。3階に駆け上がると、目の前の光景に震撼した。床にはプラスチックの破片やコード、割れたモニターが散乱し、10台のノートパソコンが粉々になっていた。
「色々な感情が渦巻きましたが、私を包んでいたのは恐怖でした。あんなふうに財産が破壊された光景を目撃したのは初めてでしたし、しかもその当事者の姿がどこにもなかったんですから」とチュンさんは当時を回想する。
事件を起こしたのは、母親の出張中に一時的にチュンさんのもとで暮らしていた、ホーチミン市在住の自閉症児のビン君だった。事件の後、チュンさんは2階のバルコニーの手すりの外側に立っているビン君を見つけた。ビン君の目に生気はなく、足元には壊れた鉢植えと机と椅子が転がっていた。
チュンさんはすぐに店を閉め、食事を注文して、何事もなかったかのようにビン君と座って食べた。ビン君は一言も説明することなく、黙ったままだった。その夜、チュンさんは眠れず、必死で原因を探った。
直感で、恐らくビン君は疲れてしまったのに、休みたいと言葉で伝えることができなかったのではないかと感じた。「大きな代償を払うことになった初めての過ちは、私が自閉症の人たちの健康状態と許容範囲を見誤ったことでした」とチュンさんは語る。
こうしたいくつかのつまずきを経て、チュンさんの会社は従業員に対して心理的により配慮するようになった。例えば、従業員の1人で、自宅から職場まで自転車で通勤しているラムさんには、職場に到着して仕事を始める前に10分間の休憩を与えている。また、唯一の女性であるチャムさんには、他の男性の同僚よりも優しく接している。
自閉症の人は、1人ひとりまったく異なる。家庭環境や生活習慣、さらには天候さえも影響を与え、問題を引き起こす可能性がある。
クアン・アインさんは、4年前に入社した日、精神的なストレスから髪の毛の半分以上が白髪になっていた。入社したばかりのころは悪態をつき、物を壊し、人前で失禁していた。
その理由を尋ねると、「悪いことが好きだから。悪いことなら傷付かないでしょ」と答えた。その答えに、チュンさんは胸が張り裂ける思いだった。傷ついたことがある子供が、憎しみを学び、棘のある殻で自分を守っていたのだ。この新入社員をトレーニングするため、チュンさんは自ら役を演じることを選んだ。