数店舗先では、キム・フオンさん(女性・56歳)の店が、数十年前と変わらず明かりを灯している。頭上まで積み上がった「副資材の山」の中で、フオンさんはちょこんと座り、オレンジ色のレースを器用に巻く。その眼差しは、周囲のすべてに黄金時代の面影がそのまま残っているかのように真剣だ。
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「昔は、商品の受け取りを待つお客さんの列が何十mにも伸びていました」と、少しの誇りと少しの寂しさが入り混じった声でフオンさんは語る。「私と夫は、毎晩数時間だけ寝たら起きて、商品の仕入れや配達の準備をしていました。配達が終わるころには空が明るくなり、そのまま市場に戻ることもありました」。
今では客はまばらだが、フオンさんは毎日欠かさず店を開ける。しかし、客がまったく来ない日もある。「今の若い子は、縫製なんてあまりしません。既製服の方が安く早く手に入る世の中ですから」と、フオンさんはため息をつく。
それでも、フオンさんは店を畳むつもりはない。「この市場は私の青春そのものです。辞めたら、きっと寂しくてたまらないでしょう。ここには昔からの仲間がいて、話し相手がいます。家に1人でいるのは耐えられません」。
ダイクアンミン市場は、単に縫製副資材を売買する場所ではない。ここは、幾世代にもわたる商人たちの思い出が詰まった場所でもあるのだ。
クアンさんにとって、棚に並んだレースやリボンの束1つ1つにそれぞれ思い出がある。「母が生きていたころ、常連のお客さんが店に入ってくると、本当にうれしそうでした。母はお客さんにいろいろと質問をして、商品を選んであげていました。今も足を運んでくださるお客さん、そして糸やリボンの1つ1つを見るにつけ、母がまだここにいるような気がするんです」と、クアンさんは言葉を詰まらせる。
フオンさんも同じだ。客のいない日は、静かにビーズの袋のほこりを払い、リボンの束を整える。「商品をきちんと整えておくことが、自分の仕事を守ることでもあるんです」と、フオンさんは寂しげに笑う。
クアンさんはこう語る。「母はこの店を血肉の一部のように残してくれました。私は、この店を手放すことはできません。裕福にはなれなくても、この仕事は私に喜びと思い出を与えてくれます。若い人たちには、せめてときどき市場に足を運んで、リボンを1本でも、レースを少しでも買ってほしいと思います。何かを縫うためでなくてもいいんです。サイゴンにかつてこんな場所があったということを知ってほしいんです」。
クアンさんのこの言葉は、優しくも奥深いメッセージだ。なぜなら、クアンさんやフオンさんのような人々が、商売である以上に、この騒がしく賑やかな都市の記憶の一部を背負っているからだ。




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