米国で育ったベトナム人養子の「矛盾」

2008/01/13 06:44 ICT配信

 レ・ティ・ブー・チャンは1970年にサイゴンで生まれた。あるアメリカ人兵士がベトナムでの兵役を終えて帰国する際、彼女を養子に迎えた。現在彼女はニューヨークタイムズ紙で主に養子問題を担当している。以下に、アメリカで育ったベトナム人養子の気持ちについて書かれた彼女の文章を紹介する。

 私はダラス近郊の小さな町で育った。住民はほとんどが白人で、その中にほんの少しアフリカ系やラテン系の人たちと私がいた。当時(1970年代)はまだ人種差別が色濃く残り、ベトナム戦争が終わっても、アメリカはその死傷者の多さに深く傷ついている時代だった。そんな背景の中、私は家族に愛され守られながら成長した。

 しばらくして両親は離婚し、母は私と2人の兄を養うために事務員として働いた。私たちは週末に父に会いに行った。時に苦しい生活をおくる時期もあったが、家族の結びつきは強く、両親の愛は疑いようがなかったし私自身も彼らを愛していた。

 私は他の白人の子ども同様に育てられたが、そう思っていたのは私たち親子だけだった。少なくとも私たちはそう思おうと努力していたが、実際は他の人との違いを認識させられる事件に事欠かなかった。思い出すのは家族全員でメキシコに行ったときのこと。養子の証明書を持参するのを忘れたため、国境警備員から私を不法入国させようとしていると疑われた。また、周囲の友だちからはいつも「ベトコン」とか「肉まん」などと呼ばれていた。

 私は10歳になるまで町で唯一のアジア人だった。もう一家族ベトナム人の養子を迎えている家があったが、親しく話すことはなかった。その子は12歳のときに養子になったのでベトナムのことをよく覚えていた。私はといえば、ベトナムのことは戦争に関する映画やドキュメント映像を通してしか知らなかった。ベトナムは戦争以外、まったく未知の国だった。大学に入ってからベトナム人学生協会の代表者と初めて交わした会話は、「ベトナム人?」、「そうよ」、「ベトナム語しゃべれる?」、「いいえ」、「そう、じゃあね」。こんな感じだった。

 自分はいったいどのグループに属しているのか。ベトナム人、ベトナム系アメリカ人、アメリカ人、アジア人・・・。私はどこにも属していない気がする。養子の子はよく「架け橋」と呼ばれるが、私はまちがった呼び方だと思う。養子という理由だけでその役割を押し付けられるのは平等ではないからだ。私はどの岸にもたどり着けない半端な「架け橋」にしかなれそうもない。

 幼くしてベトナムを離れたので、そこにルーツを見出すのは難しい。私の唯一の故郷といえば、アメリカ以外にない。ベトナムとのつながりを取り戻そうと努力しているし、ベトナム語を勉強して少しは近付いた気はするが、その発音は外国人の発音そのものだ。私には家族と一緒に旧正月(テト)を過ごした記憶がなく、受け継がれるべき伝統という感覚もない。

 自分と同世代の多くのベトナム系アメリカ人と違って、私には自分が移民として米社会に溶け込まなければいけないという思いがない。自分のルーツを考えるのがいやになったときは、自分はアメリカ人だと言ってしまいたくなる。すると今度は自分の中で「ベトナム」が消えてしまうことに対する反発が起きてしまう。まったく矛盾だらけだ。

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