ベトナム人の母親と韓国人の父親をもつ混血であることを公表している作家チャン・ダイ・ニャットは、フエ出身の妻と2人の子どもに恵まれ、現在幸せに暮らしている。しかしニャットはこの20年余り、ベトナム戦争後韓国に帰った実の父親を捜す努力をしてきた過程で、自分と似た境遇の多くの人たちに出会ってきたという。
彼らは貧しく手に職もなく、身分証明書さえなく、住む家は粗末極まりなかった。ごみ掃除やボーイの仕事で生計を立てながら、いつの日か韓国にいる父親が迎えに来てくれることを待ち望んでいた。ニャットは彼らの思いに共感し13編の物語を書き上げた。それを1冊の本にまとめたのが『漂流の人生(Nhung manh doi luan lac)』(2008年、作家協会出版社)だ。物語はすべて事実に基づくものだという。著者が心血を注ぎ込んだその作品は、幸せに恵まれなかった人々の人生の物語だ。
その中の一編「人の砂漠(Sa mac nguoi)」には、著者自身と思われる人物の人生の浮き沈みが描かれている。また、本のタイトルにもなっている短編「漂流の人生」という作品は、まるで著者の日記から引用されたもののようだ。読者はきっとホラー小説を読んだような読後感を持つことになるだろう。
ニャットはかつてこう語ったことがある。「私たちはただ戦争の被害者であり、自分自身には何も罪もありません。私たちはまた人間であって、戦争で使った後捨てられた廃物などではありません。この世に生まれたすべての人と同じように、私たちも故郷や愛情や仕事や、そして父親を必要としているのです」。彼はその動機に突き動かされてこの物語を書き、今後もこうした人々の人生を書き続けていくという。