米国バーモント州バーリントンに暮らすグエン・ティ・タイン・ホンさん(女性)はこの50年間、小さな女の子がある女性を「お母さん、お母さん!」と呼びながら追いかける夢を頻繁に見ている。しかし、母親と思われるその女性の顔を見たことは一度たりともない。
(C) vnexpress |
(C) vnexpress |
その夢を見るようになったのは、当時6歳のホンさんが米国の家族の養子になった頃からだ。米国に着いた初日、幼かったホンさんは靴を脱いで壁を汚してしまったことで、米国の家族から叩かれた。その夜、ホンさんは初めてその夢を見た。それ以来、悲しい気持ちになるたびに同じ夢を見るようになった。
「私はキッチンでご飯を1人で食べなければならず、そういう時にはいつもお母さんがいてくれたらな、と思っていました。当時は、母が私を3歳くらいまで育ててから、米国に行くチャンスが得られるように、評判の孤児院に私を託してくれたんだろうと思っていたんです」と、ホンさんは語る。
ホンさんは15歳で育ての親の元を離れ、自分で生計を立てるようになった。18歳の時に、米国に渡る際に身元保証人となってくれたカトリック教会を見つけ出し、自分のすべての身分証明書類を取り戻すことができた。
書類によれば、かつてのザーロン通り(現在のホーチミン市1区リートゥチョン通り)のマンションの外に捨てられていたホンさんを、ある修道女が見つけて同市ゴーバップ区にあるホアビン・ザーディン孤児院に連れて行ったのだということがわかった。しかし、ホンさんは捨て子だったため、出生証明書はなく、母親に関する情報は一切残されていなかった。
そして1975年4月15日、米軍の「オペレーション・ベビーリフト」により、ホンさんはベトナムを離れ、米国に渡った。「オペレーション・ベビーリフト」とは、1975年4月30日のサイゴン陥落前のベトナム戦争末期に米軍が行った南ベトナムの孤児を国外へ避難させる空輸作戦で、3000人以上の南ベトナムの孤児が米国やオーストラリアなどに養子として迎えられたとされている。