この市場で乾物を売っているチャン・トゥー・ホンさん(女性・55歳)は、目に涙を浮かべながらこう語る。「売れない日は、店先でぼんやりしながら考えるんです。もし、いつか市場がなくなったら、子どもたちが幼かったころに野菜の束や母親の商売の声の中で育ったことをちゃんと覚えていてくれるかな、って」。
![]() (C) thanhnien |
![]() (C) thanhnien |
アインさんやホンさんのような商人にとって、市場は単に生計を立てる場ではない。市場は記憶の一部であり、地域コミュニティの息づかいそのものでもある。
「市場がなくなるということは、単に屋台がなくなるということではありません。何十年分もの記憶が消え、お互いを呼び合うあの慣れ親しんだ声も消え、街の魂がなくなるということなんです」と、ホンさんは声を詰まらせる。
客の少ない屋台のほうを見つめながら、アインさんはこう訴える。「多くのことは望みません。ただ、伝統的な市場が消えてしまわないように、たまには市場に足を運んで、少しの野菜や肉を買って、私たちみたいな商人を支えてほしい、それだけです。それが市場を守ることであり、この街の『魂』の一部を守ることでもあると思っています」。
バンコー市場
バンコー市場は、別名「バンコー路地市場(cho hem Ban Co)」とも呼ばれ、ホーチミン市バンコー街区(旧3区)グエンティエントゥアット通りの住宅区の中に位置する。
1970年代、路地で開かれていた自発的な露天商が徐々に発展し、碁盤の目のような配置の市場として形成された。安価な古着や豊富なストリートフードで有名で、主に地元の住民や学生、そして伝統的な市場の雰囲気を体験したい観光客に親しまれている。
市場は朝から夜まで営業しており、小規模ながらも活気がある。一方で、インフラは限られており、スーパーマーケットや電子商取引(eコマース=EC)との競争に直面している。
碁盤の目のような珍しい区画は、この市場の大きな特徴で、ホーチミン市でも最も古い伝統的な市場の1つとされる。
旧3区人民委員会の情報によると、かつて2回の抗戦中、バンコー地区には複数の革命機関の拠点が置かれた。この地区の地元住民と武装勢力は、南部の革命と祖国統一の勝利に重要な貢献をした。
当時のバンコー地区は、貧しい庶民が暮らすエリアで、約15haの面積に52本の路地が碁盤の目状に走り、家々が密集していた。この構造こそが、南部の革命戦士たちが身を隠し、活動するための拠点となる条件を作り出していたのだ。





)
)
)

免責事項
)
)
)
)
)
)

)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)