<明日は明日の試合がある>フィリップ・トルシエ(元サッカー日本代表監督) ベトナムで育成世代にサッカー全力指導中【中編】

2019/08/11 05:00 JST配信

ベルギー戦はポーランド戦の後のサムライのハラキリ

(C) Miwa.A
(C) Miwa.A

―――ベルギー戦の逆転負けの要因がメンタル?

日本はベルギーを2-0と圧倒していたのに、リードしてからも自分たちのやり方を一貫して通した。あの試合内容で、最後の20分間に3点入れられて負けるというのは尋常ではないですよ。どんな手を使ってでも勝つために、状況に合わせしたたか、冷静になるのもまたメンタルなのです。それが日本には欠けていました。アンチフェアプレーでも勝つ、という考え方が日本の辞書にはない。

―――しかし、その前のポーランド戦で、時間稼ぎはアンチフェアプレーだ、と批判を受けながら勝ち点を守りましたが(*4)。

まさに、あのポーランド戦のせいです!ポーランド戦のラストは、勝ち残るためのリスク回避をしただけです。なぜ、あそこでリスクを冒して攻める必要がある?欧州のチームだったら、きっと皆日本と同じようにする。ポーランドだってボールを取りにこなかった、なぜ日本だけが非難されるのか。批判は大間違いです。私はずっと、あの戦い方をポジティブに評価してきた。あれもサッカーです。しかし、当の本人たち、選手も監督も、実のところでは納得がいっていなかったのでしょう。その反動があのサムライ魂・・・あれはサムライのハラキリでした。

ハラキリの結果、何が残りましたか?いかに日本がベルギーより良いサッカーをしていたかも、一次リーグでの見事な試合のことも皆忘れてしまいました。残ったのはベルギーに負けた可哀そうな印象だけ。私は本当に腹立たしいのです。日本はベスト8に行くにふさわしい素晴らしいW杯をしていたのに。サムライ魂は心のあり方で、サッカーは頭でやるものです。サッカーに“名誉の死”はない。ああいう状況を冷静にマネージするメンタルを、日本は学ぶべきです。

(C) P.Troussier

「日本での4年間は自分の中でも最も美しいキャリアだった」と語るトルシエ氏は、今でも日本代表の試合をほぼ全てチェックしていて、定期的に試合分析を日本のメディアに寄せている。ベルギーとの試合については、自分のことのようにとても悔しそうに声を大きくして語った。 ひとりの人間として、集団の中でも感情や主張を示すことと、頭で考えて冷静なしたたかさを失わないことは両立する、というトルシエ氏の話は、まさに欧州と日本の文化、道徳の違いの指摘に感じられた。フランス人は、大激論をして怒っているように見えても、本当は冷静で、感情に流されてはいないことが多い。理想と現実をかなり割り切っている。

*4:2018年W杯1次リーグ突破のための最終試合でベルギー戦の直前の試合。ポーランドに1-0でリードされながら同時進行の他の試合の結果により、そのままの点差なら勝ち残れることがわかり、終了前10分を時間稼ぎのボール回しに徹した。会場ではブーイングが起こり、試合を放棄したと、多くの批判があった。

――――――

フィリップ・トルシエ氏略歴

フィリップ・トルシエ(Philippe Troussier)

1955年3月21日、パリ生まれ。

プロのサッカー選手としてフランス国内リーグ所属後、28歳で監督業に転向。1989年にアフリカのコートジボワールに渡り、一部リーグのアビジャンASEC監督就任。1993年コートジボワール代表監督。その後モロッコのリーグチーム、ナイジェリア、ブルキナファソ、南アフリカ代表監督を経て1998年に日本代表監督に就任し訪日。U20代表、U23オリンピック代表監督を兼任。1999年U20W杯準優勝、2000年シドニー五輪ベスト8、アジアカップ優勝、2001年コンフェデ杯準優勝。2002年のW杯で日本代表を史上初のベスト16に導き退任。

その後、カタール代表監督、フランス1部リーグのオリンピック・マルセイユ監督、モロッコ代表監督などを歴任し、訪越前は中国サッカー・スーパーリーグの重慶当代力帆足球倶楽部のスポーツディレクター。2018年8月よりPVF(ベトナムサッカー才能育成基金/Promotion fund of Vietnamese football talents)の技術統括ディレクター。ハノイ市在住。

Twitter:https://twitter.com/sol_beni_3_4_3

次回(後編)は、勝負の世界に生きること、サッカー監督という仕事、数年前から手掛けるワイン造りの話などについてです。

【Text & Photo by Miwa ARAI(ライター)】

前へ   1   2   次へ
※VIETJOは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。
© Viet-jo.com 2002-2025 All Rights Reserved 免責事項

この記事の関連ニュース

 日本サッカー協会(JFA)は10日、元日本代表監督のフランス人サッカー指導者であるフィリップ・トルシエ...
 J1川崎フロンターレとベトナム1部ベカメックス・ビンズオンFCが協力して開催する「
 日本サッカー協会(JFA)は23日、AFC U-19選手権2020予選(兼U-20ワールドカップ2021・アジア1次予選)に臨...
 U-16日越国際交流サッカー大会「Future Football Project U16-Future Football tournament in NARA」...
(※本記事はVIETJOベトナムニュースのオリジナル記事です。) 前編 →
(※本記事はVIETJOベトナムニュースのオリジナル記事です。)
森に帰ったゾウ~ベトナム最後のゾウたち ダクラク省に国内初のゾウ保護観光施設オープン~ (※本記事はV...
森に帰ったゾウ~ベトナム最後のゾウたち ダクラク省に国内初のゾウ保護観光施設オープン~ (※本記事はV...

新着ニュース一覧

 商工省によると、2025年におけるベトナムの輸出入総額は推定で約9200億USD(約144兆円)となり、過去最高...
 ベトナム建設省は19日、ラオカイ~ハノイ~ハイフォン間鉄道建設事業の第1サブプロジェクトの着工式を...
慣れない海外生活、急病や事故
何かあってからでは遅い!
今すぐ保険加入【保険比較サイト】
 ホーチミン市都市鉄道(メトロ)1号線(ベンタイン~スオイティエン間)を運行する同市メトロ1号線有限会社...
 ある日の午後、60代と思われる男性が、壊れたデュポン(Dupont)製のライターを手に、ホーチミン市チョロ...
 軍事ウェブサイトのグローバル・ファイアパワー(Global Firepower=GFP)が発表した2025年版の世界軍事...
 ファム・ミン・チン首相は20日、ペトロベトナムグループ(Petrovietnam=PVN)のレ・マイン・フン会長を...
 再生可能エネルギー事業を手掛けるイーレックス株式会社(東京都中央区)は、同社が開発を進めている西北...
 一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は15日、ベトナムの新たなドローン産業団体であるベトナム低...
 電子機器・電気機械器具の製造・販売を手掛けるコーセル株式会社(富山県富山市)は、海外子会社(非連結...
 ベトナムで初となる軽量軌道交通(LRT)路線が19日、南部メコンデルタ地方アンザン省フーコック特区(島)...
 米国の調査機関World Population Review(WPR)が先般発表した
 ホーチミン市では現在、計1万8613台のタクシーが運行されており、このうち電気自動車(EV)が1万3124台で...
 レ・タイン・ロン副首相はこのほど、「2025~2035年の外国語教育強化計画および2045年までのビジョン」...
 ベトナム国家大学ホーチミン市校(ホーチミン市国家大学=VNU-HCM)の副学長を務めていたグエン・ティ・...
トップページに戻る