ベトナムニュース総合情報サイトVIETJO [ベトジョー]
 ようこそ ゲスト様 

【第10回】庶民に大人気!薬局の謎に迫る・・・ベトナム医療事情をロジカル分析

2019/08/14 11:00 JST配信

皆さん、こんにちは。 廣済堂HRベトナム の堀岡(ほりおか)です。

ベトナムをロジカル(ちょっと辛口)に分析し、ポジティブに解説する[ロジ・ポジ]。今回は街でよく見かける薬局とベトナムの医療事情についてロジカルに考察してみます。

薬局事情については、VIETJOライフのHow to ベトナムの記事「ベトナムで薬を買うには ~風邪ひいた、と思ったら~」もご参考にしてください。

>> https://life.viet-jo.com/howto/life/18

とても気軽なベトナムの薬局

ホーチミンやハノイなどの大都市だけでなく、地方都市でも、街を歩いていると結構な頻度で薬局(Nhà Thu?c)を目にします。店舗はドアもなく開放的で、カウンター越しに客が店員に相談をしている光景は、 マクドナルドでハンバーガーを買うくらい気軽 に見えます。

ベトナムの薬局は開放的

しかも、外観の印象だけでなく、実用性においてもびっくりするほどイージーで便利です。その特徴をいくつか日本と比較してみると、次のような違いが見えてきます。

ベトナムの薬局 日本の薬局
販売単位 バラ売り 可能(ビン入り錠剤は一粒単位で、ブリスターパックはハサミで切ってくれる) パッケージ単位での販売
処方箋薬 処方箋なし で買える 処方箋が必要
販売価格 国内生産のジェネリック品は 日本の4分の1くらい (筆者主観) ネット通販で安いものもあるがおおむね定価販売

ちょっとした風邪や腹痛であれば、薬局に行き店員に症状を伝えて 必要な薬を1~2日分だけ買う 、というのがベトナムの薬局の使い方です。通勤通学や買い物のついでに、どの薬局でどんな薬でも買えるので、いつも客が多いようです。

店員に相談して薬を求める客

薬局の激戦地区を調査

コンビニのように気軽で便利な薬局が、とてつもなく密集している地域がホーチミン市1区Hai Bà Tr?ng(ハイバーチュン)通りにあります。 Tân Đ?nh(タンディン)市場 からTân S?n Nh?t(タンソンニャット)空港に向かうわずか 200mほどの区間を歩いていると、数えただけでも17店舗の薬局 が次から次へと登場します。まさに “電気街”ならぬ“薬局街”の様相を呈していました。

ホーチミン市1区にある薬局激戦地帯

中には開店セール中の店舗もありました。風船で派手に飾っていて、よく見ると「卸値でバラ売りします」という趣旨の看板が出ています。恐らく同じオーナーが複数の店舗を持っているのでしょう、店名の最後に「〇(号店)」といった数字がついている店舗も多数あり、この地域の競争激化を象徴していました。

開店セール中の薬局。「卸値でバラ売りします」という意味の宣伝

販売している医薬品は欧米系の大手製薬メーカー品、日本製品、ベトナム製のジェネリック品など様々です。

太田胃散は日本並みの値段で販売

調査によれば、ベトナム全土の薬局数は39,000店(2018年)。日本は59,000店(2017年)ですので、ベトナムがそれほど多い訳ではないものの、200メートルの間に17店舗もあるこの通りは珍しいと言わざるをえません。

薬局は病院の代わりになっている

日本では、風邪で熱があると、症状が軽ければ薬局に行き、少し重ければ病院に行って、どちらにしても早めに治そうとします。家の近く、会社の近く、旅先を問わず、 どこの病院でも予約なしに自由に行くことができ 、治療費も病院で大差ないのが普通という感覚です。

しかしベトナムでは、超気楽な薬局と対照的に、 病院のハードルはとても高く なっています。その原因は、 健康保険制度と医療機関の不便さ にあります。

ベトナム人が強制加入となる健康保険は、 かかりつけ病院を指定する制度 となっています。全国に1,200ほどある公立病院から自由に選べるとはいえ、 指定できるのはひとつだけ で、通常は自宅や勤務先の近所を指定します。大型の病院が少ない地方都市では、自宅から離れていても都市部の病院を指定することがあります。

健康保険証には、指定した公立病院名が記されます。自己負担額は、指定病院で20%、指定外では70%。出張や旅行でもない限り、 行ける病院は事実上ひとつに限られる というのが、健康保険の不便な点です。

ベトナム人の健康保険証(個人情報は筆者が一部加工)

さらに、公立病院はいつでも混んでいて、 早朝に受付しても実際に診療されるのは午後 になります。半日くらい待つのは当たり前という世界です。

その上、医師のレベルが高くないと言われます。ベトナムには医師国家試験がなく、 医科大学を卒業すると全員が医者 になれます。医療設備も整っておらず、医師のレベルや経験値が向上しない原因になっています。このような医療事情から、ベトナム人の富裕層は、国内で治療可能な病気であっても 設備や技術で上を行くタイに治療旅行をする ケースが増えているようです。

健康保険制度と医療機関が不便なことから、 軽い病気であれば病院より薬局に行きたくなる 、という理由がよくわかります。

実際に薬を買ってみる

[1] 風邪の場合

筆者は今年の5月、季節変化の少ないホーチミンが乾季から雨季に代わるタイミングで体調を崩し、咳が続いて気管支炎になってしまいました。そこで、早速近所の薬局へ。症状を細かく説明したところ、?咳止め薬(日中用)、?咳止め薬(就寝前用)、?去痰薬、?鼻水薬、?トローチを、それぞれ2日分出してくれました。これ全部で6万VND(約280円)なので驚きです。

錠剤は瓶から出して粒単位で、ブリスターパックはハサミで切り離して、

トローチは箱から出して、それぞれ販売

[2] 頭痛の場合

駐在員は、海外勤務で何かとストレスが多いことに加え、日本の上司とベトナム人部下の間に挟まれ、頭を悩ませるタネが多いものです。薬局で「バファリンが欲しい」と写真を見せたら、それはないと言われ、主成分のイブプロフェンが入ったGOFENという薬を出されました。調べるとタイの製薬メーカーのジェネリック品のようで、10錠で4万VND(約185円)でした。

バファリンを希望したらGOFENを勧められた

ほとんどの日本人は、旅行者保険のような健康保険に入ってベトナムに来ていると思います。仮に病気になっても、医療設備の整った病院でキャッシュレス診療が受けられ、必要な薬は医師が処方してくれるので、 基本的に薬局に行く必要がありません 。ただ、そのような病院は数が少なく、予約が必要で、夜間や日曜日は診療していないことが多いです。従って、薬局の利用法を知っていれば、薬が必要になった時にいつでも買いに行けるため、その 安心感からむしろ病気になりにくくなる はずです。

まとめ

ベトナムの薬局は便利で気軽に利用できます。ただし、気軽に利用できるあまり油断しないように気を付けないといけません。

第2回 で書いた通り、日本人にとってベトナムは「油断しやすい国」です。何でも買えるからといって、医師の診断なしにむやみに強い薬を買うと、アレルギーや副作用の問題が起きる可能性が十分にあります。便利なバラ売りも、用法用量がわからなくなってしまう危険性もあります。

ベトナムの薬局で日本人が失敗しないためには、

?病気になったら、まずは病院で医師の診察を受ける
?薬局は、買うべき薬が正確にわかっているときにだけ利用する
?週末や夜間など急に薬が必要なケースに備え、薬局の利用方法を理解しておく

ことが重要です。

ロジカルに分析し超ポジティブに生きる[ロジ・ポジ]。

次回もご期待ください。

[参考文献]

「ベトナムの医療機関数、薬局数」 経済産業省

「医師を始めとする医療従事者の国家試験がない」 国立研究開発法人科学技術振興機構 [JST] (※ただし、2017年の薬事法改正により、国家試験が設立され、合格者も医療に従事することが可能になった)

著者紹介
堀岡宏至(ほりおかこうじ)
石川県金沢市出身。早稲田大学商学部卒。ベルリンに4年、ハノイに2年、ホーチミンに3年。新しいことへのチャレンジと海外旅行(北半球51ヶ国)を趣味とし、特技は、超ポジティブ思考とパソコンの分解修理。

現在、株式会社廣済堂のベトナム3法人(廣済堂HRベトナムZEN外国語教育センターYUKI日本語センター)の代表取締役。「ロジカルシンキング」「グローバル人材」等の研修講師を務め、時間があれば大学生にも講義を行う。

基本はシャイで無口だが、話し始めると止まらない、と言われる。

連絡先:logiposi@gmail.com または https://www.facebook.com/logiposi/
[ロジ・ポジ]
その他の記事はこちら>
© Viet-jo.com 2002-2025 All Rights Reserved. 
※VIETJOベトナムニュースは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。 免責事項
新着ニュース一覧
フランス仕込みのパティシエが焼く「金星紅旗」コレクション (10:20)

 ホーチミン市の洋菓子店「ル・プチ・ローラン(Le petit Roland)」は、南部解放・南北統一50周年を記念して、特別なスイーツコレクションを発表した。  店を経営するグエン・ミン・ヒエンさん(男性)さんは19...

南北統一50周年、ホーチミンでプロジェクションマッピング実施 (9:27)

 南部解放・南北統一50周年(1975年4月30日~2025年4月30日)記念事業の一環として、ホーチミン市1区人民委員会庁舎でプロジェクションマッピングの国際イベントが開催される。  同市庁舎でプロジェクションマ...

2025ベトナムフェスティバルinかぬま、4月19日開催 (8:40)

 栃木県鹿沼市の市文化活動交流館芝生広場で4月19日(土)、「2025ベトナムフェスティバルinかぬま」が初めて開催される。開催時間は午前10時~午後8時で、入場は無料。  同イベントは、日本やベトナム料理を...

ベトナム戦争の孤児ら乗せた米軍機「ベビーリフト」墜落から50年 (13日)

 2025年4月4日、ベトナム戦争末期の米軍による「オペレーション・ベビーリフト」の航空機墜落から50年を迎え、墜落現場となったホーチミン市12区ブオンライ(Vuon Lai)通りで追悼式が行われた。  「オペレー...

米クアルコム、ベトナムに大規模AI研究拠点設立へ 世界3か所目 (18日)

 米国の半導体大手クアルコム(Qualcomm)は16日、ハノイ市で行われたグエン・チー・ズン副首相との会談で、ベトナムに人工知能(AI)分野の大規模な研究開発(R&D)センターを設立する計画を明らかにした。  同セ...

世銀とアジア開銀、インフラ・環境改善に500億円超の融資 (18日)

 ハノイ市ナムトゥーリエム区の国家会議センターで16日夜、ベトナムにおける3件のプロジェクトを対象とした世界銀行(WB)とアジア開発銀行(ADB)による総額約9兆2399億VND(507億円)の融資・支援契約が締結された。...

モバイルマネー、試行期間を25年末まで延長 (18日)

 政府は15日、少額取引決済向けのモバイルマネーの試行期間を延長する決議第87号/NQ-CPを公布した。  ベトナム国家銀行(中央銀行)から承認された企業は引き続き、2025年1月1日から2025年12月31日まで、モバ...

ライオン、医薬品・医療機器の地場メラップを100%子会社化 (18日)

 ライオン株式会社(東京都台東区)は、ベトナムの持分法適用関連会社で、医薬品・医療機器の製造販売を中心とした企業グループの経営戦略・経営管理事業を展開するメラップライオン・ホールディング(Merap Lion H...

フェニカー大学を格上げ、「構成大学と学部を傘下に置く大学」に (18日)

 レ・タイン・ロン副首相はこのほど、フェニカー大学(Phenikaa University、ハノイ市)を、「構成大学と学部を傘下に置く大学」に格上げする決定に署名した。  今回の格上げにより、フェニカー大学は学部を再...

タンソンニャット国際空港、第3旅客ターミナル開業 (18日)

 ベトナム空港社[ACV](Airports Corporation Of Vietnam)は4月19日、4月30日の南部解放・南北統一50周年の記念日に合わせて、ホーチミン市タンソンニャット国際空港の第3旅客ターミ

首相、30年までの国家電力開発計画の調整を承認 第8期電力計画 (18日)

 ブイ・タイン・ソン副首相は15日、「2021~2030年国家電力開発計画及び2050年までのビジョン(第8期電力計画=PDP8)」の調整を承認する首相決定第768号/QD-TTgに代行署名した。  同計画は、経済社会発展に必...

1~3月期の訪日ベトナム人18.8万人、3月までの累計で過去最高記録 (18日)

 日本政府観光局(JNTO)が発表した統計によると、2025年3月の訪日ベトナム人の数は前年同月比▲5.0%減の6万4100人だった。  1~3月期では、前年同期比+9.3%増の18万8200人となり、3月までの累計で過去最高を...

1~3月期の航空旅客数2070万人、コロナ前超え (18日)

 ベトナム航空局(CAAV)によると、2025年1~3月期の航空各社の旅客輸送量は前年同期比+9.2%増の約2070万人となった。内訳は、国内線が同+5.4%増の約900万人、国際線が同+12.3%増の約1170万人で、いずれも前年...

6.6万人が参加した売春斡旋ルート、元締めの27歳男に禁固15年 (18日)

 ホーチミン市人民裁判所は14日、メンバー6万6000人近くの売春斡旋ルートを組織した元締めのグエン・フウ・タイ被告(男・27歳)に売春斡旋罪で12年、わいせつ物頒布罪で3年の計15年の禁固刑を言い渡した。  ...

3月の対日貿易収支、1462億円の黒字 前年同月比2.35倍 (18日)

 日本の財務省が発表した2025年3月の貿易統計(速報)によると、ベトナムの対日貿易収支は前年同月比2.35倍の1461億6900万円の黒字だった。  日本からベトナムへの輸入額は前年同月比+0.8%増の2482億0200万円...

©VIETJO ベトナムニュース 2002-2025 All Rights Reserved