ビー・ティ・トゥエットは、高雄(台湾)の港町でもう5年以上病人の世話係りとして働いている。彼女は今年39歳、ベトナム移民について書いた小説『海辺の会話』で台湾・新国境基金の主催する「新移民」文学賞を受賞した。
毎日入院患者を連れて海辺へ散歩に出ると、彼女はたくさんのベトナム人と出会う。小説の主人公ガーもそんな一人だ。物語の中でガーは夫に向かい、自分か、それとも前妻との間にできた子どもたちか、どちらかを選んでほしいと要求する。
「波は次第に高くなっていた。ガーは私の方に駆け寄ってきてこう言った。『あの子たちはいつも私を見下しているの。ベトナム人の何が悪いっていうの? 私はあの子たちの母親になんてなりたくないし、あの子たちも嫌に決まってる』。私は答えた。『でも、父親が子どもから離れなければならないなんて不自然よ』」
この賞のことを知ったのは偶然だった。病院で仕事をしていた時、ラジオから流れるお知らせを耳にした。それから1週間で小説をベトナム語で書き上げ、中国語に訳してもらった。小説は台湾人と結婚したガーのたどった運命を、ガーと「私」との会話を通して描きだす。作品を通して、家族から遠く離れた作者トゥエット自身の思いもつづったという。
小説の最後は家族の誰もが満足して終わる。子どもたちは祖母のもとで暮らし、ガー夫婦は新しい生活を始める。「今の2人はとても幸せそうよ。私はとてもうれしいし、波の穏やかな海のような状態がずっと続くことを願っています」
「新移民」というのは結婚を通じて台湾籍を得た人たちのことを言う。そのほとんどが中国や東南アジア諸国からきた女性だ。以前は「外国人花嫁」と呼ばれていたが、女性団体の反対により呼び名が改められた。
コンテストの審査員を務めるホアン・オアインさんは2年前にこの賞を受賞した。彼女いわく、新移民の女性たちはコンテストを通じて自分の気持ちを表現することができるのだという。「彼女たちの生活は楽ではありません。周りの人たちから尊重されないことも多いからです。この賞は台湾の人たちに新移民の気持ちを理解してもらうのにとても役立っています」