ベトナムニュース総合情報サイトVIETJO [ベトジョー]
 ようこそ ゲスト様 

自分のルーツを愛すること

2009/09/13 06:18 JST配信

 米国人ブルース・ウェイグルは私(詩人グエン・クアン・ティエウ)に会うたび、彼が13年前にベトナムを訪れた時の忘れがたい印象を繰り返し話す。彼は養子にする子どもを迎えにベトナムを訪れたのだが、ビザが切れていることにまったく気付いていなかった。彼の頭の中はただ一つ、養子にする子どものことで一杯だった。入国管理局の職員は、次の米国行きの便で引き返すように言った。

 彼はこのままでは養子にするつもりだった子どもを失ってしまうのではないかと恐れおののいた。その日、私と詩人ファム・ティエン・ズアットは空港にブルースを迎えに来ていたが、彼は私たちを見つけて目に涙を浮かべて喜び、「子どもを失ってしまう! 助けてくれ!」と叫んだ。彼の顔には恐れと不安が浮かんでいた。その夜、私はビザ発給部局の幹部職員にブルースの話を語って聞かせることで、彼の滞在許可を得ることに成功した。

 ブルースは当時8歳だった少女ハインを米国に連れ帰ることができたが、その途中で誰かにハインを奪われてしまうのではないかと四六時中心配していた。米国ボストンでの暮らしでも、ハインの帰りが遅くなると仕事をほうり出して探し回るほど目をかけて育てた。しかしハインが16歳になった時、彼は彼女がベトナムへ1人で行くことを許した。彼女が実の父親を探すことを望んだからだ。

 ブルースは、血のつながりはかけがえないものだと話し、父親探しに出かけるハインを励ました。彼女がベトナムに出発する直前、ブルースは私に電話をかけてきてハインの面倒をみてやってほしいと頼んだ。異国の地で父親を探すのには彼女はいささか若過ぎると心配したからだ。ハインは私にあった際、顔も覚えていない実の父親のことを、うまく話せなくなってしまったベトナム語で懸命に語った。

 先月ボストンでハインに会った時、彼女は父親ブルースのことを愛しているけれども、理解できるようになったのは2年ほど前のことだと打ち明けた。ある吹雪の夜、ハインを車で迎えに行った帰り道で、1人の黒人男性から車に乗せて欲しいと頼まれたことがあった。ブルースは彼を車でおくってやったが、その男性はありがとうの一言も言わなかった。ハインは怒って、ブルースを責めた。

 するとブルースはおだやかにこう言った。「私たちは感謝してもらうために人を助けるのではない。感謝を求めた瞬間、自分の良心は消えてなくなってしまうものだ」。その夜ハインは眠れず、その時初めて養父のやさしさを知ったのだという。

 ハインは今ではブルースを誰よりも慕っている。彼女は今年大学を卒業したが、その後はベトナムで英語を教えながら、ベトナム語とベトナムの文化をさらに勉強することにしている。ブルースは彼女のこの決断をとても喜んでいる。

 ブルースは私に会うと必ず、ハインのベトナム語が上達したかどうか尋ねる。平凡な質問だが、彼は私の答えをとても重要なもののように待ち、私が彼女のベトナム語をほめると、パッと顔を輝かせる。ブルースは私にこう語った。「ハインがベトナム語を愛さないことは、ベトナムの文化を愛さないことに等しい。そして自分のルーツを愛せない人は誰のことも愛せない」と。

[Thanh Nien online, 26/07/2009 15:15 ].  © Viet-jo.com 2002-2025 All Rights Reserved. 
※VIETJOベトナムニュースは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。 免責事項
新着ニュース一覧
小型EVタクシー「レッツゴー」、開業1年で500万人輸送 (17:27)

 小型電気自動車(EV)タクシーに特化した「レッツゴー・タクシー(Let’s Go Taxi)」は、2024年5月にサービスを開始してから1年間で約500万人を輸送し、走行距離は1500万kmに達した。  レッツゴー・タク...

テトラパック、ホーチミンで食品用紙容器工場の第2期を落成 (16:58)

 食品用紙容器の開発・製造を手掛けるスウェーデンのテトラパック(Tetra Pak)は3日、ホーチミン市ビンタン街区(phuong Vinh Tan)の第2ベトナム・シンガポールA工業団地(VSIP2-A)工業団地にある食品用・飲料用紙...

サングループ、ホーチミンで社会・都市交通インフラ整備を提案 (16:40)

 観光不動産開発を手掛けるサングループ(Sun Group)はこのほど、ホーチミン市人民委員会に対して、社会インフラおよび都市交通インフラに関する複数の大型プロジェクトの投資を提案した。これらの案件は官民パー...

8人兄弟の学者一族「グエン・ラン家」、故クオン氏を偲ぶ【後編】 (6/29)

 ベトナムを代表する考古学者・人類学者で、音楽家としても知られるグエン・ラン・クオン(Nguyen Lan Cuong)氏が2025年5月6日、ハノイ市のベトナム国家大学ハノイ校(ハノイ国家大学)医科薬科大学附属病院で死去...

地場NCS、AI活用のサイバーセキュリティエコシステムを発表 (16:23)

 ベトナム国家サイバーセキュリティテクノロジー(Vietnam National Cyber Security Technology Corporation=NCS)は2日、企業や組織のセキュリティ対策を強化するための人工知能(AI)を活用したサイバーセキュリ...

クアンニン省:年末まで毎週末に打ち上げ花火を実施 (14:33)

 東北部地方クアンニン省人民委員会は、同省文化スポーツ観光局の提案を受け、2025年7月4日から2026年1月1日までの毎週末(金・土)に、打ち上げ花火を実施することを決定した。地元住民や観光客向けのイベントと...

FPT、AIエージェント教育プログラムを導入 インド企業と提携 (6:18)

 ベトナムを代表するIT最大手FPT情報通信[FPT](FPT Corporation)は1日、インドの情報技術(IT)教育組織ジェットキング(Jetking)との間で、人工知能(AI)エージェント教育プログラムの

AI関連の地場スタートアップ「AI Hay」、1000万USD調達 (6:02)

 人工知能(AI)を活用した検索プラットフォームを開発する地場スタートアップのAIハイ(AI Hay)はこのほど、東南アジアを中心にテクノロジー分野のスタートアップ企業に投資するアルゴー・キャピタル(Argor Capita...

6月のベトジョー記事アクセス数ランキング (5:53)

 VIETJOベトナムニュースが6月に配信した記事のアクセス数ランキングをご紹介します。 1位:個人事業主への電子請求書義務化、店舗が敬遠で現金決済に逆戻り

6月のベトジョー記事10選:省・市再編の決議採択、国会閉幕など (5:30)

 6月は、第15期(2021年~2026年任期)国会第9回会議が閉幕しました。今国会では、34本の法律を可決し、14本の決議を採択しました。  国会では、全国63省・市の行政区を大幅に削減して34省・市とする行政区再...

クアンガイ省:ズンクアット経済区で新都市区開発、投資方針承認 (4:55)

 チャン・ホン・ハー副首相はこのほど、南中部地方クアンガイ省ズンクアット経済区内でのズンクアット東南新都市区北側・南側の2件の開発案件の投資方針を承認する決定に署名した。  ズンクアット東南新都市...

ベトナム航空、ダナン~大阪線を約5年ぶり運航再開 (4:39)

 ベトナム航空[HVN](Vietnam Airlines)は3日、2020年以来約5年ぶりにダナン~大阪線(VN336/VN337)の運航を再開した。同路線は週4便の運航となる。  ベトナム航空は同

スペースシフト、地場ベガコスモスと衛星データビジネス推進で提携 (3:21)

 衛星データ解析システム開発や衛星データ解析業務などを手掛ける株式会社スペースシフト(東京都千代田区)は、地場テクノロジー企業のベガスター・テクノロジー(VegaStar Technology、ハノイ市)グループで地理空...

TCJグローバル、地場日本語教育機関と提携 法人向け人材紹介を.. (2:37)

 外国人留学生向け進学・就職日本語コースの運営などを手掛ける株式会社TCJグローバル(旧:東京中央日本語学院、東京都新宿区)は6月16日、ベトナム国内で日本語教育と留学・就労者紹介事業を行うニャットファッ...

ラム書記長とトランプ米大統領が電話会談、貿易協定の枠組み合意 (3日)

 トー・ラム書記長はベトナム時間2日夜、ドナルド・トランプ米大統領と電話会談を行い、両国関係と両国間の相互関税について話し合った。  両首脳は電話会談で、両国関係が良好かつ急速に発展していることに...

©VIETJO ベトナムニュース 2002-2025 All Rights Reserved