排気ガスよけマスクをつけて50ccのカブを走らせる様子を見る限り、キム・ヨン・スックは生粋のサイゴンっ子そのものだ。ベトナム人に見えるのも当然。この韓国人の女の子は4年もホーチミン市に暮らしているのだ。彼女のように、就職先としてベトナムを選ぶ外国人の若者は少なくない。
「私はベトナムを選びます」
SKインターナショナル社の支社長トミー・リムは、タイ、日本、中国、インドとさまざまな国を旅した末、運命の国ベトナムにたどり着いた。ベトナムは暮らしやすく、治安がよいのが魅力という。当時の勤務先は、ベトナム定住に反対したが、彼はすぐに転職、一旗揚げようとベトナムにやってきた。妻子ももうすぐ呼び寄せる予定だ。「家族のため、祖国のため、ベトナムのために頑張らなくっちゃね。たぶんずっとベトナムに住むと思うよ。」と彼は言う。
キム・ヨン・スックは、ホーチミン市人文社会科学大学ベトナム学科の4年生。大学で言語、地理・歴史・文化を勉強するかたわら、アルバイトで通訳をし、おまけに韓国語も教えている。スックは卒業後も、通訳者・翻訳者としてベトナムに長期滞在すると決めている。「だって韓国で働くより、よい仕事が見つかるから」とスックは言う。
「ベトナムゴ ムズカシイヨ!」
トミーは怪しい声調のベトナム語でこう答えてくれた。彼は毎日の仕事の後、夜間のベトナム語教室に通い、その上家庭教師までつけている。とはいえ、勉強を始めて3ヶ月たった今も、ベトナム語、特にベトナム語特有の声調には「お手上げ」だ。ベトナム人の友人ができたことが、今のところ最大の収穫だという。彼はベトナム人と会うといつも決まって「私はまだベトナム語があまり話せません」と宣言する。そうすればベトナム人がゆっくり喋ってくれるからだ。
ベトナム語学科3年目のスックにとって、ヒアリングは「たいした問題じゃない」。彼女の頭痛の種は、自分のベトナム語が、「南部訛と北部訛どっちつかず」であることだ。さまざまな地方出身のベトナム人と付き合った結果、訛が交じり合って、もはやいずれかの地方の訛への統一は不可能になってしまったのだという。
「ナンバーの写真だけは勘弁ね!」
50ccカブの購入に至るまで、スックはあらゆる交通手段を試してみた。ベトナムに来たばかりのころ、スックは自分がバイクを「乗りまわす」日が来るなんて夢にも思わなかったという。最初はバイクタクシーを利用した。しかしながら、バイクタクシーは学生の財布には痛い出費。1ヶ月の後、「サイゴン探索のため」自転車を購入した。トゥードゥックのキャンパスに通うときはバスだ。6ヶ月後、スックはホンダの中古カブを手に入れた。「外国人のバイク登録は難しいから、私は人にバイクを譲ってもらったの。50cc以下なら免許もいらないから便利よ。」と彼女は得意顔だ。
ゲオルク・シュナイダーは、もっと「怠け者」だ。彼はバイクを月ぎめ75ドルで借りている。そんな大金払うなら、数ヶ月で1台バイクが買えるのに、と友人はアドバイスするが、ゲオルクは意に介さない。修理とか、メンテナンスとか、面倒くさい雑事から解放されるからだ。「ドイツでは車の免許を持っていたけど、僕はここでは無免許なんだ。お願いだからバイクのナンバーだけは撮らないでね。公安に捕まっちゃう。」と彼は笑う。一度友人の田舎に遊びにでかけ、公安に捕まってしまったが、これは例外。普段彼はバイクをトロトロとしか走らせないため、そんなことはないという。「交通公安を目にしたら、まるで気がついていないふりをして別の場所に逃げるのさ。目が合えばきっと尋問されちゃうからね。」彼は秘訣をこう明かす。