午前10時の市場(いちば)。肉屋の主人が赤黒く変色した豚肉を次々とバケツに入れる。次に「ホウ砂」を溶かした水を注いで1、2分振ると、肉は見事な赤ピンク色に変わり、主人は汚れた布切れで肉を拭いて水気を取ると、また店頭に並べた。隣の魚屋でも、同じようにして傷んだ魚を「鮮魚」に変身させると、氷の粒を添えて陳列。午後、そして夜もこれが繰り返され、時間が経つにつれて使われるホウ砂の量は増えて行った。
他にも、黒ずんだイカや牛の内臓を洗浄薬で洗って色を薄くするなど、生鮮食品を少しでも新鮮に見せるためのこうした「技」は、実は多くの市場で日常的に、しかも堂々と行われている。
ホウ砂は無色で水に溶けやすく、防腐力があるが、誤用すると中毒死などの恐れもあるため、現在は主に眼の洗浄や消毒のみに使用されている。特に、「子供が体重1キロ当たり2グラム以上のホウ砂が含まれる食品を食べた場合、死亡する可能性もある」と小児科医は警告する。その高い毒性から、食品加工でホウ砂の使用を禁じる法律があるにも関わらず、他人の健康を犠牲にしてまでも利益を得ようとする商売人たちが、今日も「新鮮な」食品を売り続けている。