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森に帰ったゾウ
最初に現れたゾウが、イフン(Y Khun)だった。 彼女は3歳の頃に森で捕らえれ、幼年期から木材を運搬し、時に他の野生象の狩猟に使われてきた。その後にこの園内の象乗り用のゾウとされ、老いてもなお観光客を背負い歩き続けていた。罠にかかったその日から、使役象は皆、ずっと独り鎖につながれたままになる。他のゾウと遊ぶことも森を自由に歩くことも、もうない。
2018年、イフンは60歳にして生まれ育った森に帰ることができた。彼女と挨拶を交わしていたのは、やはり長年の観光用象乗り業から解放されたばかりのブンハム(Bun Kham)、49歳の雌象だ。
「ゾウたちも、象使いだったケア係も皆、森の中で微笑んでいます。ゾウはきっと苦しい過去を記憶しているのでしょうが、赦すことも知っているのだと思います。森にいるゾウたちに会うと、もう何十回も会っているというのに、出会うたびにうれしくなり、いつまでもそこにいたい気持ちになります。野生のゾウに森で出会う感動に、見学者も皆満足してくれます。ゾウも象使いも、私たちも、皆がハッピーでいられる形があるはずです」(アニマルズアジア 動物福祉マネージャー ディオンヌ・スラグターさん)。
ベトナムの森で、野生象も使役象も、まだ必死に命をつないでいる。
どこか遠くの森の中で大きなゾウが暮らしている、と想像できることは、大切なことなのではないだろうか。長く重い過去を背負いながらも、森に帰ったイフンはあんなにも幸せそうで、共にこの世界に生きることを、祝福してくれているかのようだった。
【Text & Photo by Miwa ARAI(ライター)】
見学者とケア係が一緒にゾウの姿に微笑む。
エデ族の元象使いはケア係として勤務。
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